<めざせ語学マスター>CEFR(セファール)の複言語主義とは

2022年3月26日

二言語話せるバイリンガル(bilingual)、三言語話せるトリリンガル(trilingual)、多言語話せるマルチリンガル(multilingual)にポリグロット(polyglot)。

では複言語話せるプルリリンガル(plurilingual)はご存知でしょうか。

クエスチョン:「多言語主義(Multilingualism)と複言語主義(Plurilingualism)、何が違うの?」

一見どちらも複数の言語、という意味で同じように聞こえるこの言葉、実はどこに焦点があたっているのか、という点で意味が異なるのです。中でも、新しい考え方となる、複言語主義(Plurilingualism)とは、前回のブログで記載したCommon European Framework of Reference for Languages,(CEFR:ヨーロッパ言語共通参照枠)の言語に対する考え方や立場を表しています。

『ヨーロッパ言語教育政策策定ガイド(From linguistic diversity to plurilingual education: Guide for the Development of Language Education Policies in Europe )』(欧州評議会言語政策局(2016/2007))でも、多言語主義と複言語主義について細かく説明しています。

多言語主義(Multilingualism)とは、複数の言語が同じ国や地域、社会に共存しているものです。学校で二カ国語により教えているとか、道路標識が数か国語で書いてあったりするのも多言語主義です。例えばスイスにはドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマン語という4言語が公用語になっています。ベルギーはオランダ語、ドイツ語、フランス語が公用語。カナダでは英語とフランス語。アフリカでは部族が違い母語も違う両親が結婚して家庭や学校では英語やフランス語を使う、ということもよくあることです。

多言語主義のイメージ (社会における多言語)

一方で、複言語主義(Plurilingualism)は、本人が住む社会がモノリンガルであるのか、マルチリンガルであるにかかわらず、個人のもつ複数の言語能力を表しています。例えば、英語は中級クラス, フランス語は上級クラス, 母語は中国語だ、など全言語を完璧に習得してなくても、その時その時に応じて言語を使い分けるなどしてコミュニケーションが取れることが重要、としています。

複言語主義のイメージ(個々の能力としての複数言語)

CEFRが目指す多言語および多文化の能力はコミュニケーションや異文化間行動に参加するための「使用する能力」です。 個人はいくつかの言語や文化を習熟し得ますが、それらの言語は言語ごとのバラバラな能力ではなく、その個人の単一の能力として見られます。よって、話者の能力としての複言語主義(plurilingualism)は、特定の地域における複数の言語の存在としての多言語主義(multilingualism)と区別されます。つまり、社会における言語の状態から話者の能力へと焦点が移ったのです。

現在、ヨーロッパには220を超える固有の言語の種類があり、そのうちの約40は公用語、国語、または州の言語となっています。この数字には移民や難民の言語は入っていないので、それらを合わせると数百にもなります。複言語主義が生まれた背景には、このようなヨーロッパの多言語性があります。また、複言語主義にはこのような多様性を文化的遺産として保護していくべきだという考え方があります。これは、マイノリティの言語は不完全だと切り離すのではなく、タスクを行うときに発揮できる個人の能力の一部とみなしているからです。

遠くのことだと考えると複雑ですが、日本人が外国にいって、「外国語ができない=能力がない」と考えられたり、外国語が出来ないことをコンプレックスに感じたりするより、「この人は外国語を話すのは苦手そうだけれど、読んで理解するのは得意だし、母語では難しい論文も書いているんだな。」など、総合的に受け止められたほうが出来るタスクも増えてきそうです。

これは日本にいる外国人に対しても同じかもしれません。英語のネイティブが日本語を話すだけで過度にほめるのもおかしいですし、アジア系の留学生や実習生の日本語が下手だと見下すのもおかしな話です。日本の歴史や島国という地理的条件があるのかもしれませんが、それも過去の話。「その言語を使ってこの人は何ができるか。それ以外だとどのタスクが可能か」という視点で総合的に個人を受け止める複言語主義の考え方は日本でも推進されるべきなのかもしれません。(鍋)

 

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