<めざせ語学マスター>ヨーロッパで翻訳を学ぶ

2022年6月14日

前回のブログではフランスの大学院、ESITの通訳部門について触れましたが、翻訳部門はどういう訓練をしているのかを少し見てみましょう。

その前に日本の事情もお伝えしておきます。日本で翻訳者になろうとしたら、どうするのが良いでしょうか。
日本の大学などで語学や文学を専攻する人は多いですが、即戦力となる「翻訳者」としての訓練を受ける人、というよりその後商社や国際機関で働けるようなゼネラリストが養成されているように見受けます。幸い、日本には多くの民間の翻訳学校があります。字幕の学校や、技術翻訳の通信学校など、翻訳雑誌を開いてもたくさんの学校が広告を出しています。また、弊社の翻訳者の経歴を見ると、学校だけでなく、金融や工学系など、社内で翻訳や通訳をやっていた人が独立するケースが多いようです。言語別の事情でいえば、英語の翻訳者さんは結構細かい専門分野に分かれていて、「私は医療専門です」「私は自動車専門」など皆さん特化した分野をお持ちです。これが英語以外の言語になると「専門分野=ロシア語」のように、どんな分野でも浅く広く対応している人がほとんど。マーケット自体がニッチなので「私はロシア語の農業が専門です。」と特化してしまうと生活が危ぶまれてしまうのです。

ではヨーロッパの翻訳者の養成方法はどのようなものなのでしょうか。先日通訳部門についてお話したフランスの通訳・翻訳大学院、エジット(ESIT)の翻訳部門の紹介ページ(フランス語) から見てみます。

まずはその目標から。

Objectifs(目標)

Former des spécialistes de la traduction capables de s’adapter à tous les contextes et de garantir la fiabilité et la qualité de l’information écrite, afin d’apporter une réelle valeur ajoutée aux entreprises et organisations dans le cadre de leurs échanges internationaux.

企業や組織の国際交流に真の付加価値をもたらすため、あらゆる状況に適応でき、かつ情報の信頼性と品質を保証できる翻訳スペシャリストを養成すること。

同ページには通訳部門での説明同様、学習で使う言語についてもきっちり説明があります。

Langues de travail :

L’enseignement est dispensé en combinaison linguistique trilingue, incluant la langue maternelle ou de travail. Ces langues sont classées A, B et C (voir ci-dessous).
L’inscription en combinaison bilingue est toutefois possible pour les combinaisons français/anglais et anglais/français.
Pour la combinaison trilingue, le français et l’anglais sont obligatoires, quelle que soit la troisième langue choisie : allemand, arabe, chinois, espagnol,italien, japonais, portugais ou russe.
– Les candidats francophones présentent l’anglais en langue B ou C.
– Les candidats non-francophones présentent nécessairement le français en langue B.
– Les candidats anglophones présentent le français en langue B, et leur éventuelle langue C nécessairement est l’espagnol.
– La langue C des autres candidats non-francophones est nécessairement l’anglais.

使用言語

教育は母語や使用言語を含めた3言語で行われます。三言語は言語A、言語B、言語C(下記参照)にカテゴリー化されます。英語/フランス語、フランス語/英語については2言語でも登録可能です。3言語の場合、3つ目の言語はドイツ語、アラビア語、中国語、スペイン語、イタリア語、日本語、ポルトガル語やロシア語などでも構いませんが、フランス語と英語は必須です。

-フランス語圏出身の受験者は英語が言語Bまたは言語Cになります。
-フランス語圏以外出身の受験者は、フランス語が必然的に言語Bになります。
-英語圏出身の受験者はフランス語が言語Bとなり、必然的に言語Cはスペイン語となります。
-フランス語圏出身でない受験者の言語Cは必然的に英語になります。

続けて、言語ABCの説明もあります。

Qu’est-ce qu’une combinaison linguistique ?

Langue A : langue maternelle et/ou principale cultivée, riche, maniée avec grande précision et aisance. C’est la langue principale vers laquelle travaillent les interprètes et traducteurs.

Langue B : moyen d’expression oral et/ou écrit, rapide et précis, dont toutes les nuances doivent être comprises, même si l’expression est un peu moins élégante que dans la langue A.
Langue C : aussi parfaitement comprise que les langues A et B, mais les traducteurs ne sont pas appelés à travailler vers leur langue C. Toutefois, étant donné qu’on ne saurait comprendre parfaitement une langue que l’on n’écrit/ne parle pas, il est indispensable de savoir au moins s’exprimer de façon véhiculaire dans cette langue.

言語の組み合わせとは?

言語A : 母語であり/または教養があり語彙が豊富で正確かつ落ち着いて使える言語。通訳や翻訳者が原則訳出に使う言語。

言語B : 言語Aほどのスムーズさはないかもしれないが、早く、正確に、すべてのニュアンスを理解しながら口頭表現および/または記述できる言語。

言語C:言語AやBほど完璧に理解できても翻訳者であれば訳出までは期待されていない言語。ただし、記述や口述をしない言語を完璧に理解することはできないので、媒介言語として記述出来るくらいの知識は必須。

通訳部門の説明を見たときも感じましたが、「私、日本語も英語もフランス語もネイティブ並みにできるわ」と軽く言った瞬間に説教されそうな厳格さですね。
さて、そんな彼らは卒業後はどういう進路に進むのでしょうか。

Les traducteurs diplômés de l’ESIT exercent leur métier soit en tant que professionnels libéraux, soit comme salariés. Les débouchés sont nombreux et variés, dans les entreprises de l’industrie, du commerce et des services, la fonction publique et les organisations internationales, en France comme à l’étranger.

卒業後は、フリーランスや社内翻訳者になりますが、その就職先は工学系、商社、サービス、公務員、国際機関と様々で、勤務先もフランスや海外と多岐にわたります。

ヨーロッパでは翻訳者もすぐに就職できそうで羨ましいです。
でも・・・。機械翻訳の発展も目覚ましい昨今、「Google翻訳があるからもう翻訳は結構です」という反応は日本も海外も同じではないでしょうか・・。

・・と心配したら、トップページ に以下のような説明も見つけました。

 

翻訳をする、といえばどの本を訳したの?と質問されるかもしれませんが、翻訳は文学だけでなく、児童書から原発の運転方法までと幅広いもので、辞書と時間さえあれば出来るものではありません。翻訳は技術職なのです。ESITの大学院は2年あり、翻訳理論、翻訳方法論、経済法律一般知識以外に、プロの教師によるワークショップがあります。2年の間に生徒は翻訳現場でインターンシップに参加し、レポートを作成し、公開口述審査を受けることになります。また、約100ページの論文提出も必要です。(抄訳)

しかし私が驚いたのはこちらの部分!

訓練は、昨今の新しいカテゴリーにも対応しています。といっても法律や医療といった分野ではなく、翻訳者の新しい役割という意味です。現在の翻訳者には単に全ての原稿を訳すのではなく、クライアントにとって有用な情報を抽出して訳すことが求められつつあります。字幕や、視覚障害者のための音声ガイダンス、ネット上の自社イメージを評価するイメージモニタリング、複数の会議から議事録や分析レポートを作成する技術などがあげられ、どれもデジタルマスコミュニケーション技術の発展によるものです。

当大学院ではこのような新しい作業形態にも適応した訓練をすることで、“進化し、世界にオープンで、かつ有益な翻訳者”の育成を目指します。

え!何この最後の部分!翻訳が時代遅れ・・・なんかではなく、時代に追いついた翻訳方法を教えてくれるの??

さすがヨーロッパ。CEFRという枠組みが確立されているだけでなく、翻訳者や通訳者の技術進化も進んでいそうです。

しかしこの最新スタイルの翻訳研究、特にフランスのこの大学院だけが特殊なのではなく、EMT(European Master’s in Translation)という高等教育機関に求められるヨーロッパ共通の翻訳修士課程に即したもののようです。また、このEMTというスタンダードも、私たちが通常考える翻訳者像とはかなり違っています。

次回は、このヨーロッパで翻訳者に求められている能力(EMT)についてもう少し調べてみようと思います。(鍋)

<めざせ語学マスター>日本語教育に関する他のブログはこちら
ヨーロッパで通訳になる
CEFR(セファール)の複言語主義とは
CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)って何?
ジョハリの窓
ルース・ベネディクトの「菊と刀」
サピア=ウオーフの仮説
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