きっかけはPTAのセミナーで聞いた話です。「AIが現存する多くの仕事を代替していきます。皆さんのお子さんが大人になる頃には、今ある職業の半分が消えているかもしれません。」この言葉に衝撃を受けた私はもう少しAIを知ろうと、本屋でAIに関する本を探しました。
本屋に行くとAIに関する本がたくさん並んでいます。その数は多く、どれから読めばいいのか迷うほどです。そんな中、私が最初に手に取ったAI入門書がこちらの本、「AI VS.教科書が読めない子どもたち」でした。
著者は数学研究者の新井紀子さん。2011年から「ロボットは東大に入れるか」という人口知能プロジェクトのディレクターを務めている方です。「数理論理学が専門」と聞いて、最初は難しそうだなと思いましたが、実際に読んでみると文系の私でも理解できるように、AIの進化の歴史や仕組みが丁寧に解説されていました。
その後もいくつかAIやChatGPTについての本を読みましたが、この本ほどわかりやすく説明してくれているものにはまだ出会っていない気がします。
例えばAI進化の歴史について。
1950年代
世界で最初にAIという言葉が登場したのは1956年のことです。アメリカ東部のダートマスという町で開催されたワークショップで、世界初の人工知能プログラム「ロジック・セオリスト」が発表されました。このプログラムは、自動的に数学の定理を証明するもので、推論や探索を使って問題を解く研究の一環として開発されたものです。チェスや将棋のようにルールが明確で条件が限定された場面では高い性能を発揮しましたが、複雑で不確定な問題には対応できませんでした。この課題は、「フレーム問題」として知られています。その結果、当初の期待がしぼみ、AI研究は一時的に下火になってしまいました。
1980年代
第2時AIブームが到来しました。この時期には、コンピューターに専門的な知識を学習させ、問題を解決させるというアプローチが注目を集めました。エキスパートシステムと呼ばれる実用的なシステムが次々に開発され、実際にさまざまな方法で活用されました。たとえば、法律の知識をコンピューターに学習させ、あらかじめ定めたルールに基づいて推論と探索を行い、専門家のように振舞わせるシステムなどが作られました。しかし、法律家は単に法律や判例の知識だけで働いているわけではありません。社会規範や常識、人間の感情などを総合的に判断する必要があります。そのため、法律や判例をコンピューターに学習させることはできても、人の感情や常識を理解しない限り、エキスパートとしての役割をはたすことは出来ませんでした。
また、この時期に体系的な知識をインプットする過程で、言語化されていない知識を扱う難しさにも直面しました。これらの課題が限界となり、第2次AIブームも徐々に衰退していきました。
1990年代
1990年半ばに検索エンジンが登場。インターネットが爆発的に普及しました。
2010年代
第3次AIブームが起きます。第2次AIブームまでは私たちの「考え」というものは論理に基づいていると考えられてきました。「これがAならばBが正しく、BならばCが正しい」とき、A=Cが成り立つためには・・と考えてきたのです。ここに新しい考え方が導入されました。機械学習という統計的な方法論です。例えばAIにイチゴを教えようとすると、「これがイチゴだよ」と教えるための教師データを作る必要があります。人間だったら一度見ただけでイチゴを覚えられてもAIが認識するためには100万個のイチゴのデータが必要になります。膨大なデータの収集を可能のしたのがインターネットの普及とそこにあるビッグデータの存在でした。
翻訳業界では、GOOGLE翻訳がAIを使ったNMT(ニューラル機械翻訳)を導入したのが2016年のことでした。当時、当社の社員が「今までと全然違って、すごく自然!」と驚いていたのを覚えています。それまでの機械翻訳の印象を一変させた瞬間でした。
では、AIはどのようにものごとを認識しているのでしょうか?AIにものごとを教えるためには認識させたい対象物の大量のサンプルが必要です。たとえば、イチゴの画像をAIに認識させる場合、「どの位置に、どの色が、どの輝度で写っているか」を伝える「教師データ」が不可欠です。画像にはラベルがつけられ、それらはすべて「0、1」で表現されます。こうして生成される膨大な「0,1」の列(ピクセル値行列)を使って、AIは画像内のイチゴを上下左右関係から特定します。
具体的には、イチゴの種と実の色や輝度のコントラスト、種からできる影などの特徴を検出し、イチゴの写っているデータと映っていないデータを数値化します。それぞれの特徴に「重み」を付け、実の赤さと緑のヘタのコントラストの重みは0.7、種と実のコントラストは0.5といった具合に重みを調整していきます。この重みを調整する過程が、いわゆる「学習」と呼ばれるものです。
現在では、スマホでイチゴを撮影するだけで、それが「イチゴ」であると認識するどころか、どんな種類のイチゴなのかまで判別できるようになっています。これも、上述のように「0,1」の集合体をAIに大量に学習させた成果です。実は機械翻訳も同じ手法で行われており、どこかで「0,1」に変換されていると考えると、人間の翻訳者の携わる翻訳作業とは全く異なる次元で動いていることがわかります。(続く)
(文 鍋田 / 絵 嶋田)
コメントを残す