<MemoQマニュアル>翻訳中の文書から用語集を登録する

2022年2月3日

今回はMemoQで翻訳中の原稿や翻訳が終了したファイルから用語集(タームベース)を登録する方法を説明します。

MemoQでは、オンラインプロジェクトを開くときに以下のように「プロジェクトをチェックアウト」するか「WebTransで文書を開く」かを選ばなければなりません。

もしデスクトップ版のMemoQをお持ちの場合はチェックアウト(自分のローカルにプロジェクトを同期するようなイメージ)すれば、お持ちのPC上のMemoQ上で作業できます。

もしあなたが翻訳者でデスクトップ版のMemoQをお持ちでなければ、WebTrans(ブラウザ上での翻訳)を選ばなければなりません。またWebTransの表示は英語だけになり、ボタンも少し違って見えます。

以下は、WebTrans版での用語集登録の仕方です。下はWebTrans版の表示画面です。

用語集に追加していきたい語があったら、原稿の中から当該語を選び、ソースとターゲットの列からそれぞれControl を押しながら選びます。(選んだ用語に色がつきます。)


その後、右上に緑の丸がついたボタン、「Create term base entry 」を押します。。

すると下のような画面が表示されます。

OKを押してください。これで用語集に追加されました。

デスクトップ版も説明しておきます。

「プロジェクトをチェックアウト」を選ぶと下のような画面が開きます。

上記と同様に選択した単語をソースとターゲットからそれぞれControl を押しながら選びます。(選んだ用語に色がつきます。)すると下の画面が開きます。

あとは同じです(下部に表示される「OK」を押してください)。また、「用語の追加」ボタンのすぐ下にある「用語のクイック追加」を押せば上記の画面の表示をスキップして登録させてしまうことが出来ます。

大事な用語はどんどん登録していきましょう!

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<めざせ語学マスター>ルース・ベネディクトの「菊と刀」

2022年1月31日

先日のサピア=ウォーフの仮説の中に出てきた彼らの師匠、フランツ・ボアズの生徒の一人、ルース・ベネディクトは日本を研究しました。

ルース・ベネディクト(Ruth Fulton Benedict:1887年~1948年)Wikipediaより

ルース・ベネディクトはボアズに師事し、1934年出版の『文化の型』では、あらゆる人間社会の中で現れてくる行動パターンの形成過程を記述し、文化の相対主義を表現しました。その後、1936年(49歳)でコロンビア大学の助教授に昇任。第二次世界大戦がはじまると、アメリカ軍の戦争情報局に召集されました。この時の報告書を基に、戦後の1946年に発表したのが彼女の有名な「菊と刀」です。戦争中で現地(日本)には行けず、彼女は一度も来日せず、文献と日経移民との交流を通じてのみ調査をし本を完成させました。
彼女は1948年にコロンビア大学正教授に任じられましたがその二か月後、1948年に61歳で亡くなりました。

「菊と刀」で述べられた「日本の恥の文化(shame culture)」と「西洋は罪の文化(guilt culture)」の比較や、日本人は「階層制度・秩序」に対する信仰があるとか、「恩」は階層社会の上から下への義務・負債なのでこれを返済しなければならないとする「報恩」の文化、などは、当時から賞賛を受けたり、批判を受けたりしています。

コロナ禍の今、改めて読み直すと、「階層制度・秩序」を重んじるという日本の文化は、ロックダウンなしの自粛でもルールを守るところとか、自粛警察があちこちに現れてそのような「暗黙のルール」を守らない人を凶弾する、など、あちこちでその残像を見ることが出来ます。「お上のいう事に従う」という習慣は日本人の中にひそかに引き継がれていて、コロナ禍のような非常事態に表に浮き出てくるのかもしれません。普段上品だった女性が「あんた、マスクしろ!」と叫んだりする光景は戦争中の日本を彷彿とさせます。戦後70年たって日本人もすっかり変わったと思っていたら、根っこは変わっていなかったのかもしれません。

私が学生時代にフランスに行って驚いたことは学生も抗議デモを呼び掛けたり、しょっちゅうメトロや鉄道などがストで動かなくなったりすることでした。最近でもコロナ禍のワクチン義務化に反対するデモとか、その前は燃料価格の高騰に対する「黄色いベスト運動」がありました。集団で抗議デモをする、というのは日本でも時々ニュースで見ますがやはり他国に比べるととても少ないと思います。外国のデモの激しさに「怖いなー」と思いますが、日本のデモの少なさにも不思議だなと感じます。最近はSNSという手段があるので、そこで世論はある程度計れるのかもしれませんが、それも「匿名性」があるから出来ること。はたからみたら日本人はなんておとなしい国民なんだと思われるかもしれません。

ルース・ベネディクトは日本人を理解するには、まず「分相応に振る舞うこと」という考え方を理解しなければならない、としています。アメリカ人が自由と平等を信じるのと同じように、日本人は秩序と序列に重きをおくと彼女は指摘しました。日本人の序列の意識は、人と人との関係、人と国との関係の全てに通じる重要な概念だ、と。話し方一つとっても、自分より上の立場の人に話すか、下の人に話すかで言い方が異なるし(尊敬語や謙譲語)、お辞儀の深さも違うと説明しています。

確かに現代でも、小学生で先生への敬語を学び、中学校で先輩・後輩を区別するようになり、就職したら上司、部下、客先など、相手により自分の話し方を変えるすべを習得します。会社では「鈴木さんは現在席を外しています。〇〇会社さんから電話があったこと、伝えておきます。」などと電話で受け答えすると上司から「同じ会社の人は鈴木だけでいい。サンはいらない。」と指摘されるなど、ウチとソトの区別は複雑です。発言するだけで上下関係を作らざるを得ないのが日本語です。サムライが無口だったのは、下手にしゃべって自分の立ち位置を間違うことを恐れていたからなのかもしれません。

日本に行かずにこれだけの情報を収集した彼女はすごいとしか言いようがありませんが、私は日本人の秩序とか義理、などの話のほかに、日本の家庭についての詳細な説明が面白くて仕方ないです。例えば

“Young wives whose husbands have died are called “cold-rice relatives”, meaning that they eat rice when it is cold, and have to do what all of the other members of the family tell them to.” (若い夫を亡くした妻は、「冷や飯食い」と呼ばれます。直訳すると「すでに冷たくなったごはんを食べる」という意味になります。そうした未亡人は、亡き夫の家族のいうことにただ従って生活をしているのです。)(第6章 一万分の一のお返し)
(日本語訳も「菊と刀(縮約版)より」

ルース・ベネディクトは一体どんな人からこれを聞き取ったんでしょうか。

また、こんな説明もあります。最近は核家族が多いので、必ずしも同居していませんが、嫁と姑の問題に歴史は関係ないのかもしれません。

The biggest enemies in the family are the mother-in-law and the daughter-in-law. The daughter-in-law comes into the house as a stranger. She has to learn how the mother likes to do things. In many cases, the mother believes that the young wife is not good enough for her son, but there is a saying that “The hated daughter-in-law gives birth to well-loved grandsons.” Japanese girls today often talk about what a good idea it is to marry a man who is not the first son. (家族の中で最も反目するのは姑と嫁です。嫁は家によそ者として入ってきます。嫁は姑がどのようにすれば喜ぶのかを学ばなくてはなりません。多くの場合、姑は、若い嫁が息子に十分に尽くしていないと思い込みます。日本には、「憎き嫁、かわいい孫を多く産み」という言葉があり、また最近では、若い女性の間では、長男ではない男と結婚することがなんていいことかしらと、語り合っているということです。) (第6章 一万分の一のお返し)
(日本語訳も「菊と刀(縮約版)より」

長男と結婚したくない、と戦争中も思う日本女性がいたんですね。アニメ「鬼滅の刃」で主人公の炭治郎が『俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった』というセリフは、日本人のファンの間で支持率が高いようですが、この「長男」と「次男」の違いは、海外で放映されたときもしっかりと理解されたのでしょうか。

家族ではないですが、こんなことも書かれています。

Sleeping is another thing that the Japanese love. They can sleep anywhere, even in places where Westerns think it should be impossible. At the same time, however, they are quick to give up sleep. A student preparing for examinations works night and day, and never thinks that sleeping would help him do better on the test. (寝ることは日本人が愛する(温泉以外の)もう一つの楽しみです。彼らはどこでも睡眠をとります。西欧の人々からみてあり得ないような場所であっても。それでいて、日本人はあっさりと睡眠を諦めます。受験勉強に日夜取り組む学生は、睡眠がテストで良い成績をとるために必要なことであるとは思っているわけではないのです。)(第9章 人の情の領域)

現在も揺れる電車でよく眠る日本人を見ると、今でも似たような感覚を得る外国人はいるんだろうなと思います。それにしても戦争中に調べた「ありえない場所」とはどこだったんでしょうか。

「菊と刀」では、「日本の恥の文化(shame culture)」と「西洋は罪の文化(guilt culture)」が比較されますが、そのしつけの始まりは6歳、7歳から始まるとしています。

Slowly, after children are six or seven, they are given responsibility for “knowing shame”. They know that if they do not do so, something terrible will happen: their own family will turn against them. During the earlier years, they are prepared for this through things like teasing. These early experiences prepare the child to accept great controls on him when he is told that “the world” will laugh at him and reject him. (6歳か7歳になるころ、彼らは「恥を知る」ように、責任を与えられます。子供たちは、その責務を果たさないと、恐ろしいことが起きることを知らされます。家族みんなが向かってくるような、幼少の頃から、彼らはからかわれることによってこうした責務への準備をさせられています。)(第12章 子供は学ぶ)

確かに私自身も母親に「そんな事したらお母さん恥ずかしいわ。」と言われながら育った覚えがあります。「恥」と「罪」が対比するのかどうかはさておき、日本人に恥ずかしがりやが多いとしたら、こういうしつけをされながら育つことで極端な自意識過剰になったり、自己肯定感が持てなくなったりするのと関係があるのかもしれません。ルース・ベネディクトはこのようにして日本人は批判されることへの畏れや仲間外れになることへの恐怖が植え付けられるとしています。同調圧力は外からだけでなく、本人の内側からも作用するのかもしれません。

出版から70年ほどたっていますが、確かに今読んでも納得してしまいそうなところがあります。ちなみにこの題名の「菊と刀」は、日本人は菊を芸術の高みみまでもっていく国民なのに同時に刀や武士をも崇めてしまう、という不思議さを表しています。しかし彼女は、他の国を理解しようとするなら、その国民の習性や物の考え方を知らなければならない、またそれがわかれば理解できる、という観点から日本を研究しました。アメリカの日系人への聞き取りや、夏目漱石や、忠臣蔵などの文献を読み、その性質を知ろうとしたのです。

戦争中の研究をベースにしているとはいえ、文化相対主義という切り口で研究されているせいか、戦争の敵国の分析であるわりに、とてもクールな見方がされています。これが悪い、これが変だ、というのではなく、日本人の行動様式とその理由が説明されているので、日本語に翻訳された後も、強く批判する日本人がいる一方で、腑に落ちたと感じた日本人も多かったのではないかと思います。

また、自分自身を含めて、この本を読む日本人が多いということも「分をわきまえることを重んじる」日本人ならではなのかもしれません。「外からどう見られているか」を気にする日本人の国民性は出版後何十年たっても変わっていないのでしょう。

(出典「菊と力」IBCパブリッシング(日英併記の縮約本))

 

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<MemoQマニュアル>統計の使い方

2022年1月28日

MemoQの「統計」機能を使って、原稿の文字数のカウントと、原稿の中にどのくらい重複(繰り返し)があるかを確認することができます。

まず、プロジェクトホームから対象文書を選択(クリック)します。

次に、「文書」タブから「統計」を選択します。

ウィンドウが出てくるので、「計算」をクリックします。

すると、統計の結果が出てきます。

表のうち、原稿の全体の文字数は「総数」の「すべて」⇒「ソースの単語数」の箇所に表示されます。ここでは「20,107」とありますが、これは和文20,107文字という意味です。またこの数字は繰り返し箇所も含みますが、数字など翻訳不要な部分は含まれていないようです。

繰り返しの文字数は、その下の行「繰り返し」に表示されます。ここでは37文字が重複している文字数になります。

「繰り返し」は同じ原文テキストのセグメントが複数回あることを意味します。
例えばある文章が文書中に3回出てくる場合、1個目は新規翻訳が必要ですが、2個目と3個目には自動的に翻訳が挿入され確定されます。そのため1個目は「一致しない」~101%マッチのいずれかのカテゴリでカウントされますが、2個目、3個目は「繰り返し」として計算されます。

また、その下の「分析」の表で、50%以上一致している箇所がどのくらいあるか、%ごとに結果が表示されます。

100%マッチは、TMに翻訳する原文と全く同じ原文および翻訳が存在する場合です(完全一致)。しかし、今回の原文の前後の文脈とTMに保存されている文脈が異なる状態です。
101%マッチは、TMに翻訳する原文と全く同じ原文および翻訳が存在し、なおかつ、今回の原文の前後の文脈とTMに保存されている文脈が同じ場合です(コンテキストマッチ)。

このように、MemoQの統計機能を使用して、文字数や繰り返しのカウントを行うことができます。

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<めざせ語学マスター>サピア=ウオーフの仮説

2022年1月12日

日本人はとかく年上なのか年下なのかを気にします。
「年齢は一個上。でも学年は一緒だよ。」
という(数ヶ月の違いも話題になるような)会話はよくしますし、年の差婚などという言葉もよく聞くように、男女の年の差も気にします。

「I have a brother.」
なんて英語で言われると、まず日本人は
「 Is your brother younger or elder than you?」
のように兄か弟かをはっきりさせたがります。
そこがはっきりしないとモヤっとして次の話題にいけない、という人もいるでしょう。そもそも日本語には、年が上か下かを表現しない兄弟・姉妹の言い方がありません。きょうだいを表す言葉には、兄妹(けいまい)や弟妹(ていまい)という言葉もあるそうですが、日常ではほとんど使わない気がしますし、いずれにせよ誰が年上か、年下かははっきりさせないといけません。

そんなせいか、日本人にとって、相手が外国人であっても、その家族像を認識するための年齢情報は大事なファクターになります。しかし、聞かれるほうからすると「なぜそんなにこだわるの?」と不思議に思うかもしれません。

この感覚は
「リンゴ買ってきたよ。」
とあなたが言ったらイギリス人の友人に
「リンゴは何個?1個?複数?」
と問い詰められるのと似ているのかもしれません。「どうだっていいじゃん。りんごはりんごだよ。毎回、りんご2個とか3個とか細かく言う必要ある?」とあなたは思うかもしれません。

年齢や家族構成(あなたは長男なの?次男なの?)にこだわるくせに、日本人は単数・複数には結構無頓着です。あえてぼかしているときすらありますが、日本語を英語などの外国語に訳すときには困るポイントです。翻訳者は常に「この”女性”というのは1人の女性ですか、複数の女性ですか」などいろいろ質問しなければいけません。

よくエスキモーの言語には雪を表す語がたくさんある、と言われます。でも、日本語にも、日本語以外に訳そうとすると難しいだろうなと思う言葉がたくさんあります。例えば、虫の声などのオノマトペ、雨の種類(春時雨、入梅、夕立、秋雨、時雨、大雨、集中豪雨)、嗜好品でいうなら、納豆の種類(ひきわり納豆、小粒納豆、大粒納豆、そぼろ納豆、吟醸納豆、極小粒納豆)などなど。

しかし、これをもとに「単数・複数をおろそかにするようでは、日本語は文化的に低レベルだ」などと言われたらムッとしますよね。また、日本人は音に敏感な人種だ、とか、天気に異常なまでに気を遣うとか、豆の発酵に執着している、とか言われると、「そうかな・・」とも思いますよね。

でも、歴史の上では、例えば「日本語は膠着している」で紹介したカール・ヴィルヘルム・フォン・フンボルト(1767 – 1835年)だって彼らのヨーロッパ言語は他の言語に比べて優れていると信じていました。残念なことですが、英語教育が盛んな日本の現在だって、英語至上主義に陥っているのかもしれません。

前置きが長くなりましたが、サピア=ウオーフの仮説は、今から100年くらい前に発表された「私たちの宇宙観や世界の把握の仕方、経験の様式、統率の仕方などは私たちの用いる言語が異なれば、それに対応して異なる」という仮説です。サピア=ウオーフというのは1人ではなく、ポーランド生まれの人類学者、言語学者のエドワード・サピア(Edward Sapir, 1884年- 1939年)とアメリカ生まれの言語学者、ベンジャミン・リー・ウォーフ (Benjamin Lee Whorf、1897年- 1941年)が別々に発表した仮設をまとめて呼んでいるものです。

また、彼らより以前に、「言語はその話者の宇宙観や世界観の形成に影響を与えているのか」という課題に取り組んだ学者がいました。ドイツ生まれの人類学者、フランツ・ボアズです。エドワード・サピアはボアズの弟子でした。そしてベンジャミン・リー・ウオーフはサピアの弟子でした。“サピア=ウオーフの仮説”は、どこか時代をつなぐ師弟の物語のようでもあります。


フランツ ボアズ(Franz Boas, 1858年- 1942年) (ドイツ生)wikipediaより

ボアズは、もとは自然科学と地理学、物理学をドイツで学んだ人でした。1883年(ボアズ25歳)、カナダの北海岸沖のバフィン島にあるイヌイットのコミュニティでフィールド調査にいき、そこで、自然界ではなく、人と文化を研究することへの関心を持つようになりました。

彼は、フィールドワークをしている間、当時支配的だった「イヌイットは野蛮だ」という見解に疑問を抱きます。文明化された社会と原始的社会は根本的に違う、とされていた考え方に異議を唱え、全ての社会は基本的に平等であり、異なる社会の人間を理解するには彼らの文化的文脈を知ることが必要だと主張しました。

その後ボアズはアメリカ自然博物館の学芸員になり、1899年にはコロンビア大学で最初の人類学教授になりました。ここで多くの学生に影響を与えます。彼が教えた学者には、人類学者のマーガレット・ミード女史(サモアやパプアニューギニアを研究した学者)、ルース・ベネディクト女史(日本について記述した「菊と刀」で有名な学者)、黒人女性作家のゾラ・ニール・ハーストンなど有名な学者や作家が多くいました。

有名なエスキモーの雪の表現の多さについてはボアズが1911年にその著書「The Handbook of North American Indians』で記したと言われています。(それは事実ではなく、彼の理論が勘違いされたまま、みんなが信じられてしまった話だそうです。詳しくは「エスキモーの言葉に「雪」を表す単語がたくさんあるという与太話 」をお読みください。)

多くの弟子の中でも、ネイティブアメリカ諸語の研究を行ったのが、彼の弟子、エドワード・サピア(Edward Sapir)でした。


エドワード・サピア(Edward Sapir, 1884年- 1939年)Wikipediaより

ドイツ帝国のラウエンブルク(現在のポーランド)生まれのユダヤ人。6歳のときに渡米。アメリカの人類学者、言語学者。

1904年(20歳)にコロンビア大学をドイツ語の学位を得て卒業しますが、卒業後2年間、ネイティブアメリカンの言葉、ウィシュラム語とタケルマ語について実地調査を行ないます。コロンビア大学では人類学者フランツ・ボアズに師事しました。ボアズに影響を受け、サピアはネイティブアメリカンの言語研究を行います。その後、シカゴ大学に勤務。移籍したイェール大学では人類学科長になりました。言語学と人類学とを結びつける研究の先駆けであり、李方桂やベンジャミン・ウォーフは彼の教え子でした。

1921年(サピア38歳)、「使用する言語によって人間の思考が枠付されている」とする新しい言語観を発表しました。これを1940年代にベンジャミン・リー・ウォーフが取り入れ、発展して後にサピア・ウォーフの仮説と呼ばれるようになりました。サピアは1939年2月4日、心不全により54歳でなくなります。

とても学者的なサピア氏に対して、ベンジャミン・リー・ウオーフはちょっとその経歴が独特です。


ベンジャミン・リー・ウォーフ (Benjamin Lee Whorf、1897年- 1941年)。アメリカ生まれ。言語学者。wikipediaより

1918年にマサチューセッツ工科大学を卒業し、化学工業の学位を取得後、ハートフォード火災保険会社で防火技師として働き始めます。その傍ら言語学と人類学の研究を行なうようになりました。1931年(34歳)、イェール大学でエドワード・サピアの下、言語学を勉強するようになりました。サピアはウオーフの支援を行ない、1936年にはウォーフをイェール大学の客員研究員に指名します。1937年(40歳)にはスターリング奨学金を受け、翌年にかけて、人類学に関する講義を受け持ちましたが、サピアが亡くなった2年後、1941年に、44歳という若さで、癌により死去しました。

こうしてサピアとウオーフが発展させた理論は、“サピア・ウォーフの仮説”と呼ばれるようになりました。「私たちの宇宙観や世界の把握の仕方、経験の様式、統率の仕方などは、私たちの用いる言語が異なれば、それに対応して異なる」という考え方です。「言語は人間に対して経験の仕方を規定する働きを持ち、人間の思考が母語によってあらかじめ定められた形式に即して展開する」とする考え方は「言語的相対論(linguistic relativity)」と呼ばれました。

彼らの死後、言語相対論は批判されたり、再評価されたりしていますが、「言語は、その言語話者の思考方法を決定づける」といった言語決定論を信じる学者はほとんどいないそうです。確かに、日本語では単数・複数を区別しなくても「彼女ら」や「君たち」など少し不自然な日本語を補ったりして考えれば理解はできますし、日本語にはない表現方法は、全く理解できないのではなく、理解はできるけれど言葉が足りない、というだけのことなのかもしれません。

ところで、ボアズの弟子のひとりが「菊と刀」の著者、ルース・ベネディクトで、彼女が研究の対象を日本にしたとしたら、当時、よっぽど日本という国は変な国に映ったのかなと想像してしまいます。

このブログにたびたび出てくるアメリカ人翻訳者に、「日本語ってそんなに変かな?」と改めて聞くと、「日本語の文法はあいまい。でも、日本人は大体のコミュニケーションは超能力でやってる、エスパーみたいな感じ。」と言っていました。なるほど、今回も結構いいところをついているのかもしれません。(鍋)

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<お知らせ> 新年のご挨拶【株式会社フランシール】

2022年1月5日

新年明けましておめでとうございます。

皆様の夢や目標が叶えられるよう、願っております。
Greetings and Best Wishes for the New Year from us at Franchir!

May 2022 bring you good health, happiness and success in all your endeavors.

 

社員一同からの年賀動画はこちらです:

Click here to view our video greeting on YouTube:

https://www.youtube.com/watch?v=bP1sCnv9r5k

 

2022年も宜しくお願い申し上げます。

We look forward to working with you again in 2022!

 

Sincerely,

****************************************

株式会社フランシール | FRANCHIR Co., Ltd.

代表取締役 鍋田(伊藤)尚江| NABETA -ITO Hisae, Representative Director

〒171-0031 東京都豊島区目白4-19-27 | 4-19-27 Mejiro, Toshima-ku, Tokyo 171-0031

TEL : 03-6908-3671  FAX : 03-6908-3672

E-mail : nabeta@franchir-japan.co.jp

http://www.franchir-japan.com

****************************************

 

旧年中は大変お世話になりまして、誠にありがとうございました。

本年も変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。

 

株式会社フランシール 社員一同

<めざせ語学マスター>日本語教育能力検定試験に合格しました!

2021年12月28日

去年も一昨年も、その前も、さらにその前も、クリスマス前に受け取ってきた日本語教育能力検定試験の不合格通知。思えば「そろそろ諦めたら?」という家族の声を耳にしながら、今年もチャレンジしてしまった試験でした。

忘れよう、忘れよう、と思っても郵便受けを見てしまう。先週「なぜこないんだろう。今年は遅れているのか、はたまた子供たちが新聞にまぜて捨ててしまったか・・」と思っていたら昨日、大きな封筒に「合格証書在中」と書かれた茶封筒が入っていました。

合格すると、中身をみなくてもわかるんだ!

・・・ということを結局5年間かけて知ることができました。

しかし日本語教育能力検定試験は、英検やフランス語検定に比べると、試験の時間もほぼ一日と長く、日本語だけでなく言語学も奥深く、言語の試験としては私個人にとっては最も難しかったです。

ただ、翻訳や通訳という言語に携わる仕事を20年以上続けているわりに、言語学という角度から言語を見たことがなかった私には知れば知るほど面白かったのも事実。過去仕事をする上で何度か思ってきた「これは何という現象なんだろう?」「どうしてうまく言葉が出てこないの?」「どうしてあの人は何カ国語もペラペラ話せるの?」など、数々の疑問を解決してくれるような学習体験でした。

現在はAI翻訳なども人気ですが、今回の日本語教育の勉強で、ソシュールやチョムスキーから今のトレンドにつながるまでの歴史も見れたので、仕事上においても私の興味はつきません。

今後もできるだけ日本語教育能力試験の路線をキープしつつ、語学に関するブログを続けていこうと思っています。

最後に、過去何度も不合格になり、今年合格できたことの理由・・があるとしたら下記のようなことかなと思うので書き留めておきます。何度も落ちている私の意見はあまり良いアドバイスではないかもしれませんが、誰かのお役にたてると嬉しいです。

1.ブログを書くことで記憶の精緻化ができたこと。(精緻化についてのブログはこちら⇒「めざせ語学マスター:記憶とは」

2.過去受験した日本語教育能力試験の3年分をやり直して(過去問だけはありすぎるほどあったので・・)、わかりづらいところは大学ノートに写したこと。特に「毎日のんびり日本語教師」の過去問についての説明は、とても勉強になり、スマホで見てはノートに書き写して学ばせていただきました。今年、受験直後にブログを見るとすでに令和3年の試験の解答予測と説明まであったのには驚きました。(ただ、私は自己採点するのが怖くて説明だけ見て驚いておりましたが。)

初めて日本語教育について勉強しようと、アルクの通信教育を受けたのも数年前。その時の資料は現在でも貴重な勉強源です。数回の不合格を経験し、その後ビデオを見る通信講座も受けましたが、やはり、ぼんやり見たり聞いたりしているだけではなかなか覚えられませんでした(歳のせいもありますね。もうアラフィフなので)。今年は重い腰をあげて、昔ながらの、大学ノートに地道に内容を整理したり、書きためていく、大学受験のような方法をとりました。結局はそれが一番着実だったのかもしれないな・・・と今は感じています。

ブログに関しては、日本語教育能力試験を過去あっさりと合格し、現在もいくつもの言語を操るOさんに細かいところまでチェックしていただきました。私が「母国語」と書くと「母語です」と、「単語」と書くと「語です」など、丁寧に教えていただきました。私は翻訳の世界に長くいたのになんて知らないことが多いんだろうと感じ入った1年でした。(Oさんのブログ「モンゴル語とロシア語の違い、 なぜモンゴルではキリル文字を使う?」も面白いので是非一読ください。)他の社員の皆さんにも私がよくおこす誤字脱字のミスを何度も指摘していただきました。みなさんに感謝です。

また来年もめざせ語学マスターのブログは続けます。

皆様にとって2022年が良い年でありますように。(鍋)


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<お知らせ>★年末年始休業日のご案内★

2021年12月23日

誠に勝手ながら下記期間は業務をお休みさせていただきます。
2021年12月30日(木)~2022年1月3日(月)
2022年1月4日(火)からは通常通りの営業となります。
※年明けの納品をお考えの場合は、お早めにコーディネーター迄ご相談ください。
休業期間中はご迷惑をおかけいたしますが、何卒ご了承の程お願い申し上げます。

FRANCHIR CO., LTD. will be closed from December 30, 2021 to January 3, 2022 for the winter holidays.
We will be back in the office on Tuesday, January 4, 2022. Thank you very much for your understanding.
Please contact the relevant coordinator if you have any upcoming projects you would like completed over the holiday period.

FRANCHIR CO., LTD. fermera ses portes du 30 décembre 2021 au 3 janvier 2022 pour les vacances d’hiver.
Nous les rouvrirons à partir du 4 janvier 2022. Merci de votre compréhension.
N’hésitez pas à contacter le coordinateur concerné si vous avez le moindre projet que vous souhaiteriez voir achevé avant la fin de l’année.
Franchir vous souhaite un joyeux Noël et de très bonnes fêtes de fin d’année.

Просим обратить внимание, что наша компания будет закрыта с 30 декабря 2021 г. по 3 января 2022 г.
Мы будем снова работать в обычном режиме с 4 января 2022 г.
В случае, если Вы планируете обратиться к нам за оказанием переводческих услуг, которые нужно завершить в период выходных дней компании, просьба обращаться заранее к координатору нужного Вам языка.
Приносим извинения за причиняемые неудобства.

FRANCHIR CO., LTD. se cerrará a partir del 30 de 2021 al 3 de enero 2022 por las vacaciones del invierno.
Volveremos a la oficina el 4 de enero 2022. Le agradecemos por su comprensión.
Por favor no dude ponerse en contacto con el coordinador pertinente en caso de que tenga algún proyecto nuevo que desea ser entregado antes del fin del año.
¡Les deseamos a todos una Feliz Navidad y próspero Año Nuevo!

 

<MemoQマニュアル>翻訳プロジェクトの作成方法

2021年12月20日

CATツールを使う場合(ここではMemoQ)、翻訳作業を開始するときにはまず最初に「プロジェクト」を立ち上げます。今回はその立ち上げ方を説明します。

まず、「プロジェクト」の構成を簡単に説明します。

実際のMemoQ では以下のような画面で作成します。(下はMemoQクラウドの管理者用画面ですがデスクトップ用でも基本は同じです。)

(プロジェクトを新規に作成する時、テンプレートの「One TM and One TB」を選べば自動的に翻訳メモリと用語集が作成されるようです。以下では、TMとTBを自分で作成していく方法を説明していますが、テンプレートを使う方が便利かもしれません。)

赤い四角の中、「新規プロジェクト」を押すと新しいプロジェクトを立ち上げることができます。
(デスクトップ版のMemoQではオンラインプロジェクト(下の雲マークがついた二つ)の選択肢は出てきません。)

デスクトップ版で「新規プロジェクト」を立ち上げと下の画面が出てきます。

オンラインプロジェクトでは下の画面が開きます。
ここから先はオンラインプロジェクトで説明します。(デスクトップも基本は同じです)。

プロジェクトの名前を入れます。必要に応じてクライアントの名前やドメイン、タイトルなどを記入します。

次に言語を選択します。ここでは例としてソース言語を日本語、ターゲット言語を英語にします。

次にオプションの画面が出ます。この例ではとりあえず何もしませんが、
◎ 変更履歴の使用の有無
◎ QAエラーがあったら納品をさせないようにする
◎ 機械翻訳のプラグインの無効化
◎ ユーザー(翻訳者など)がローカルコピーにおいて機械翻訳(MT)設定を変更できないようにする
◎ 用語集プラグインの無効化
◎ オンライン翻訳メモリプラグインなどの無効化
などのオプションが選べます。

「次へ」を押すとさらに別のコミュニケーションオプションが表示されます。
◎チェックアウト時にメモリと用語ベースのオフラインコピーを作成する
◎ユーザー(翻訳者)によるセグメントの結合・分割を許可する
◎文書のローカルコピーを訳文エクスポート用のスケルトンを含める
◎文書のローカルコピーにプレビューファイルを含める
などのオプションがあります。

オプションの設定が終わると下のようにプロジェクトが立ち上がります。(完了)

しかしここで終わりではありません。
次に翻訳メモリ(TM)と用語ベースの設定を行います。最初に例えたカラのバケツです。プロジェクトを立ち上げただけでは「プロジェクトのハコ」ができただけの状態です。空のバケツ(入れ物)を作ってあげないと、翻訳しながら作るべき翻訳メモリ(TM)や用語集(TB)を保存する先がなくなってしまいます。

まずは翻訳メモリ用のバケツを作りましょう。左側にプロジェクト用の翻訳メモリ、用語ベースのアイコンがあるので、まずは翻訳メモリを選んでください。

左上の「新規作成」ボタンを押します。

下のような画面が出ます。最初から日本語と英語が入っているのは最初にプロジェクトでソース言語とターゲット言語を指定したからです。

特に指定したいオプションがなければ(上記はデフォルトのまま)「OK」を押します。

このプロジェクト用の(カラの)翻訳メモリが出来上がりました。左上の「✔」マークがオレンジになりました。これは「変更されました。適用しますか?」という適用ボタンです。このメモリで問題なければボタンを押してください。緑色になり、適用されたことが分かります。

次は用語ベースです。用語ベースボタンを押してください。

翻訳メモリのバケツを作った時と同様、「新規作成」ボタンから、本プロジェクト用の(カラの)用語ベースを作成します。

すでに英語と日本語が☑になっていることを確認し、OKを押します。

同様にオレンジの適用☑を押せば、用語ベースの(カラの)容器が出来上がりました。

その後翻訳すべき原稿をプロジェクトに追加します。(原稿がないと、翻訳メモリと用語ベースだけのプロジェクトになってしまいます。)原稿は「インポート」から行います。

もし下のようなエラーメッセージが出たら、それは「原稿が他のワードなどで開かれています」ということ。慌てずに確認し、まずは開いている原稿があれば閉じましょう。他でもエラーメッセージが出ることがありますが、慌てずに表示されている内容を読んでください。ファイルを開いたままだった、など、意外と簡単なことでエラーがでるので一つ一つ解決していきましょう。

さて、原稿もインポートされました。これで最初の「プロジェクトのハコ」(=原稿+翻訳メモリ+用語ベース)の1セットがそろいました!

コンプリート!

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他のMemoQ プロジェクトはこちら

CATツール:翻訳メモリとは
各画面の説明(DESKTOP版とWEB版)

<MemoQマニュアル> 各画面の説明(DESKTOP版とWEB版)

2021年12月14日

MemoQをダウンロードし翻訳作業を行う場合、作業をデスクトップ版で行うか、ブラウザ上で行うか2通りの選択肢があります。表示される画面が少し異なりますので、実際にどのような画面表示となるのか説明します。

 

まず、MemoQを立ち上げたらダッシュボードから対象のプロジェクトを選択⇒翻訳対象ファイルをダブルクリックします。

 

↓ファイルを開く際に、この画面が表示されます。

デスクトップにMemoQがダウンロードされている場合は、ローカルプロジェクト(=デスクトップ上でファイルを開く)またはWeb Trans(=ブラウザ上でファイルを開く)で文書を編集するかを選択することができます。私は最初この「チェックアウト」という表現に違和感を覚えて「ログアウト」と脳内変換され、「あ、このままログアウトしてはいけない!!」と思ってしまっていましたが、「チェックアウト」は「立ち上げ」と同じ意味合いです。

 

では、「プロジェクトをチェックアウト」を選択してみましょう。

 

MemoQ上で新たなウィンドウが開き、次の画面が表示されます。

左側に元言語(この場合は日本語)、右側に翻訳用のセルが表示されます。文章はセグメントごとに区切られており、翻訳者は右側に翻訳(この場合は英語)を入れていきます。

 

では次に、「Web Transで文書を開く」を選択してみます。

 

ブラウザが開き、次の画面が表示されます。

デスクトップ版同様、左側に元言語、右側に翻訳用のセルが表示されます。

デスクトップ版とは異なり、上部にさまざまなアイコンやボタンが並びますが、すべて英語で表示されます。作業もデスクトップ版同様、右側に翻訳を入力していきます。

以上、ローカルプロジェクトとWeb Trans上の画面表示についてのご説明でした。

株式会社フランシール MemoQプロジェクトスタッフ

<MemoQマニュアル> CATツール:翻訳メモリとは

2021年12月6日

フランシールではCATツールとしてMEMOQを使っています。

この<MemoQプロジェクト>シリーズでは、わかりやすいように、翻訳会社で使っているCATツールとは何か、翻訳メモリとは何か、などを説明していきます。

① CATツールとは何でしょう。

CATツールとは、Computer Assisted Translation(コンピュータ翻訳支援)ソフトのことです。有名なCATツールでは、下のようなものがあります。

TRADOS(ドイツ 1984年創設):最も古くて有名

その後東欧などでもCATツールは新しく開発されました。

MEMESOURCE(チェコ 2010年創設)
MEMOQ(ハンガリー 2006年創設)
XTM CLOUD(イギリス 2002年創設)
OmegaT (無料のCATツール 2000年創設)

どのCATツールも「翻訳テキスト、翻訳メモリ、用語集」を使って翻訳をする、という点で基本は同じです。表示方法も似ています。

(なぜフランシールではMemoQを使うことになったかというと、MemoQの日本担当の三浦さんが数年前に当社にお越しいただき、CATツールに疎かった私たちに根気よく使い方を説明してくださったからです。感謝)

② なぜCATツールを使うのでしょうか。

翻訳会社に持ち込まれる原稿には、バージョンが違うだけでほとんど同じだったり、繰り返しの多い文章がたくさんあったりと、ただ翻訳するだけでなく原稿の分析が必要な書類も多いです。一つ一つ見比べて「ここは新しい、ここは前にあった文章・・」と分けていく作業は大変時間がかかります。また、すでにある文章を新しく訳してしまったら、「同じ原稿なのに2種類の翻訳がある!」という問題が起こってしまいます。

そのような問題を解決したのがCATツールです。CATツールには以下のような機能があり、ただ見ただけでは気づかないようなミスや重複も自動的に検知してくれます。

 繰り返しを自動で入れてくれる
 翻訳メモリがあるので、過去のデータからすぐに似た文章を探してきてくれる
 用語集も作れるし、すでにあればインストールできる。
 翻訳者には新規の箇所を依頼するだけ。
 おまけに同じ原稿なのに違う表現で翻訳すると警告も自動で出てくる。

③ CATツールは機械翻訳機なのか?

CATツールは過去のデータを再利用するためのツールで、機械翻訳ではありません。
それに対して、GOOGLE, DEEPL、ロゼッタなどのテキストを入れると翻訳が出来上がるアプリケーションは機械翻訳と呼ばれます。機械翻訳はMT(Machine Tranlsation)と呼ばれることが多いのですが、以前AI翻訳を開始して有名になったGOOGLE翻訳以外にも現在は多くのAI翻訳が存在します。また、CATツールにMT機能をプラグインさせてメモリ機能と機械翻訳を両方使う翻訳方法も使われています。例として、MemoQにプラグインできるMTとして以下が挙げられます。

Intento
DeepL
Amazon MT
Google MT
Kantan MT
CrossLang
AltLang
Omniscien Technologies
Iconic Translation Machines
Tilde MT
Microsoft TranslatorTM
PangeaMT
Systran
Slate Desktop
Mirai Translator
TexTra MT
Tmxmall MT
Alexa Translations A.I.MT
ModernMT
Google Cloud Translation Advanced
(MemoQ ホームページ)

さらに最近は、翻訳会社で翻訳したメモリもAI翻訳のコーパスの一部として利用する方法も出来つつあります。CATツールもどんどん進化しているんですね。

④ CATツールを使いたくない理由
上記で説明してきたCATツール、こんなに素晴らしいなら常に使うべきだと思うかもしれませんが、実は抵抗も大きいのです。

翻訳コーディネータ(翻訳会社内)の抵抗
扱っている翻訳にほとんど繰り返しがないから必要ない。
PDF原稿が多いから原稿のデータ化が大変
 メモリを作るのに時間がかかるから面倒
CATツールに原稿をインポートする前のプレエディットや翻訳後のポストエディットが大変
そもそも機械が苦手
翻訳ペアが英語じゃない。わざわざメモリにする必要があるか疑問
すぐにエラーが出るから使いづらい
翻訳者がいやがる
翻訳者が他のCATツールを使っているからいやだと断られた

フリーランス翻訳者側
 自分独自の翻訳メモリや用語集を使っているから翻訳会社にCATツールに合わせたくない。
 そもそも新しいツールが苦手。
 今までは自由に翻訳できたのに、制限を付けられるのがいや。まるで高速道路から一方通行の道路に移動させられたみたいだ。
 時間がかかる。
新規の箇所のみの翻訳やポストエディットが増えて収入が減る。

本来はCATツールは繰り返しのあるマニュアルや、例えば2系列あるプラント設備の仕様書、定款や契約書などの定型フォームがある原稿の翻訳に利用価値があります。戸籍謄本や住民票などの法定翻訳は、定型であっても原稿がPDFや紙ベースで文字化しようとすると文字化けしてしまうものや個人情報を多く含むものは(メモリに個人情報も保存されてしまう可能性があるため)CATツールの使用には向いていません。

ただ、対訳データは大切な資産ですが、原稿と翻訳文がバラバラにあってもすぐに利用することは難しく、それらを翻訳メモリ(コーパス)に作り直すためには時間とコストがかかります。やはり、翻訳しながらメモリを作っていく方法は一番効率的です。

最近のCATツールは同じソフトを持たない外部翻訳者にライセンスを貸し出す方法で翻訳が可能になりました。MemoQクラウドもそうです。しかし慣れない翻訳者にとって新しいツールを使うことは翻訳以上に負担が増えることになりかねません。

そこで今回フランシールのMemoQクラウドプロジェクトチームを作り、出来るだけ平易な言葉で(MemoQヘルプ以上に)わかりやすく参照できるマニュアルを作ることになりました。社内、社外スタッフの負担を出来るだけ減らせたらと願っています。また、これから導入を検討している方にもお役にたてたらと思います。

翻訳エージェントと翻訳者、お客様がWINWINの関係になれるような、そんなCATツールの使い方を今後も目指します。

株式会社フランシール MemoQプロジェクトスタッフ

「翻訳メモリとは何か」を説明した動画はこちら

<めざせ語学マスター>メタファーとは

2021年12月5日

まだ私が翻訳会社に入りたてのころだったと思いますが、「メタファー」が話題になったことがありました。メタファーとは何か。シニフィエ・シニフィアンについて教えてくれた上司はメタファーについても教えてくれましたが、その教え方は独特でした。

私:「どういうのがメタファーになるんですか?」
上司:「つまり、実際にあなたが履いているストッキングは全然色っぽくないかもしれないけれど、椅子の上に誰のものかわからないストッキングが脱ぎ捨ててあると、そこから想像力が働いて、実際に履いている人よりもずっと魅力的になる、そういうものの例えですね。」

もう20年くらい前だから時効だと思いますが、今言ったらセクハラと言われそうな発言ですね。確か当時はやっていたイメクラなどの話題が出た延長線だったかと思いますが、なぜイメージがお金になるのか、というところからメタファーに繋がりました。メタファーがお金になるなら、なんとも不思議な話です。

「メタファー」という言葉は英語からの借用語として比喩全般を指すときに使われますが本来は比喩の一種である「隠喩」を指します。下の比喩の説明でも記載しますが、本来は「芸術は爆発だ」のように、「まるで」とか「~のように」を使わないで「A=B」などと例える修辞技法の一種です。

しかしメタファーや比喩の表現は簡単そうで、翻訳するときは意外と厄介ものです。

例えば「彼女たちは蟻のように仕事した」というフランス語のニュース記事を読んでつい「女工哀史」のようなブラック企業を想像してしまったら、すぐ横の写真には工場で笑いながら楽しく働いている女性たちの姿。「え?ブラック企業のニュースじゃないの?」と思ったら、フランス語の表現”travail de fourmi”には勤勉で丁寧な仕事をする人のこととありました。でも日本語で「あなたの働き方、蟻みたいね。」と言われたら褒められているのか褒められていないのかちょっとわからない気がします。

一方で、「狸」は日本語では「狸寝入り」や「取らぬ狸の皮算用」「狸おやじ」などいろいろ表現がありますが、英語ではRaccoon dog, アライグマに似たアジアの動物、というイメージしかないようです。「取らぬ狸の皮算用」は英語では英語では”Don’t count your chickens (before they are hatched)!” や“Don’t sell the bear skin before catching the bear.”とチキンやクマに化けてしまいます。

フランス語には、“Avoir une mémoire d’éléphant.”(象のように良い記憶力)という表現もありますが、もし私が日本語で「あなたの記憶力って象みたい」と言われたら一瞬、馬鹿にされたのかな、と勘違いしそうです。また同じ象でも、英語で“white elephant”と言えば無用の長物のこと。英語では « There is an elephant in the room. »という表現もありますが、ここでの「象」はみんなが分かっているけれど口にしない問題や話題のこと。しかし日本語で「みんな問題があるってわかっているけれど口にしない。まるで部屋にいる象だね。」と言われても「は?」と思いそうです。

色のイメージでいうと、銀の表現が英語でよく使われますが、“be born with a silver spoon in his/her mouth”(銀のスプーンを加えて生まれてくる)というのが「裕福な家に生まれる」ことになるとは、日本生まれの私にはなかなか想像できません。“Every cloud has a silver lining.”という表現(直訳すると「すべての雲には銀の裏地がある」)は、転じて「どんなに悪いことにも希望の光がある」ということにつながりますが、この表現を知らなければ落ち込んでいるときに「ほら、全ての雲には銀の裏地があるさ」と言われても慰められているのか何かのなぞかけなのかわからなくなりそうです。


Silver lining (雲を縁取る銀のライン)

このように、比喩というのは、表現を豊かにする一方で、その言語が使われている地域の文化や考え方もわからないとなかなか理解できないものでもあります。「Aみたいに」と言ったところで、「A」のイメージが同じでないと、通じないか、誤解を招くこともあるわけです。

日本語の比喩も一筋縄ではいきません。以下では比喩の種類について説明していきますが、実は私たちは「~みたいな」や「~のように」などの表現以外にも、無意識にたくさんの比喩を日常的に使っていることが分かります。

そもそも比喩とは

あるものごとをわかりやすく説明するために、それに似た他のものに例えて言い表すこと。
原義から転義が派生する過程で、比喩が重要な働きをしていることが多くあります。比喩には直喩(シミリ)、隠喩(メタファー)、換喩(メトニミー)、提喩(シネクドキ)があります。

1, 直喩(ちょくゆ)
(英語:simile)スマイルではなく、シミリです。(語源はラテン語のsimilis)
「りんごのような頬」「お皿のような目」「まるで猫のような声」「さながら一枚の絵画のよう」など、ある事物を他の事物と直接に比較して,その特徴を表示する修辞法です。「~のようだ」「~みたい」「まるで」「さながら」「たとえば」などを使って表現する方法で、比喩法の中で形式が最も簡単なものになります。

簡単な比喩の手法ですが、上述のように「狸みたい」、「象みたい」や「蟻みたい」といった表現は外国語で使うときはその言語でそれぞれの動物や対象物がどういうイメージで把握されているか確認してから使わないとリスクもありそうです。

2, 隠喩(いんゆ)
(英語:英: metaphor)いわゆるメタファーです(語源は“転送”を意味するラテン語のmetaphora)
「メタファー」という言葉は英語からの借用語として比喩全般を指すときに使われますが本来は比喩表現の中でも類似性に着目して、ある言葉を、それとはまったく異なる概念領域にある言葉で表現する方法です。暗喩(あんゆ)ともいい、「~のようだ」「~みたい」という語句を使わずに比喩を表現します。
「足が棒になった(足がこわばるほど疲れた)」「君は僕の太陽だ(光をくれる存在)」「ネットが炎上した(誹謗中傷が集中した)」「パンの耳(端)」「テーブルの脚(支柱)」「月見うどん(卵の黄身を月に例えてます)」なども隠喩です。
また、隠喩は文学でもよく使われます。
「この世は舞台、人はみな役者だ(シェークスピア)」(All the world’s a stage,
And all the men and women merely players)

また、聖書でも隠喩はふんだんに使われています。

「わたしが道であり、真理であり、いのちなのです。わたしを通してでなければ、だれひとり父のみもとに来ることはありません。」(ヨハネ14:6)

3, 換喩(かんゆ)
(英: metonymy)メトニミー。語源はギリシャ語μετωνυμία(名前の変換)です。
「今月も赤字」と言ったら欠損があること、というように、ある事物をそれと関係のある事物を使って表すことです。「青い目」で「西洋人」を、「鳥居」で「神社」を表します。「ごはん」は本来お米を意味しますが、「朝ごはん」「昼ごはん」などでは食事全体を示しています。「鍋を食べる」は「鍋」で鍋料理を表します。「やかんが沸騰する」の「やかん」はやかんの中の水のこと。「夏目漱石を読む」の「夏目漱石」は彼が書いた本を著し、「白バイ」は警察官を、「客足が遠のく」の客足は顧客を、「足の便が悪い」の「足」は移動手段、「耳が早い」の「耳」は噂などの情報を集める能力を意味します。


鍋を食べる。(=鍋料理を食べる)

やかんが沸く。(やかんのお湯が沸く)

4.提喩(ていゆ)
(英語:synecdoche)シネクドキ。語源は同時理解を意味するギリシャ語(συνεκδοχή)です。
「花より団子」の「花」が「風流」や「外観」を示すように、概念を包摂するような上位語、あるいは逆に下位語を用いて表現する比喩の方法。「花見」は「桜」を「桜」の上位語である「花」で表し、「下駄箱」の「下駄」は「履物」という上位語を、「筆箱」の「筆」は筆記用具を表しています。

逆に上位語で下位語を表すこともあります。「お茶をする」の「お茶」は「飲み物」を表し、「手が必要だ」の「手」は労働力を表しています。「天気がいい」の「天気」は本来、晴れだけでなく雨や嵐も含む上位語です。

お花見(⇒桜を見ること)

下駄箱⇒(履き物を入れる棚)

親子丼は「親子」は「人間の親子」「動物の親子」などを含む上位語が下位語(鶏の親子)を表しているので提喩になります。でも・・・「親子(鶏と卵)」を一緒に食べている、と想像するととたんに食欲が減りそうな気がしますね。

親子丼(鶏と卵という親と子が入ったどんぶり)

しかし、この提喩と換喩ですが、例えば「手を貸す」の「手」は「体の一部」を表すという点では提喩(シネクドキ)ですが、「労働力」を表していると考えると換喩(メトニミー)にも思えます。提喩は「包摂関係にある二者の置き換えを意図する修辞法(量的な置換)」で、換喩は「包摂関係にない二者の置き換えを意図する修辞法(質的な置換)」とされていますが、表現によってはどちらに属するのかはっきり区別するのが難しいものもあるようです。(鍋)

参考:新版 日本語教育事典

フランス語の表現辞典のサイト:https://www.linternaute.fr/expression/cgi/recherche/recherche.php
英語でイメージも同時に検索できるサイト:https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/


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<めじろ奇譚>テレワークは日本で浸透するか?

2021年12月2日

新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大し、大流行となった中で、政府からのソーシャルディスタンスの推奨や要求に応じて、世界中の多くの企業がテレワークを実施するようになりました。新型コロナが流行するより前からテレワークを実施していた企業ではテレワーク実施割合を増やすだけで済んだかもしれませんが、今回の大流行により初めてテレワークを導入する企業も多くあったに違いありません。

統計を比較するとこの効果がよくわかります。日本では、2019年12月時点での(100%実施している人から不定期的に実施している人まで含む)テレワーク実施率が10.3%でした。2021年5月にはこの割合が30.8%にまで上昇していました。[1]

企業や社会全体がテレワークを受け入れる準備ができているかどうかには、国の産業構造や労働文化の違いなどが影響していて、例えばスウェーデン、オランダ、ルクセンブルグ、フィンランドなど、新型コロナ拡大以前からテレワーク実施率がすでに30%を超えていた国もあります。[2]

国や産業、職業によってテレワークの実施率が異なるもう一つの理由として、デジタル化の度合いもあります。つまり、デジタル化の度合いが低いと、テレワークの実施が技術などの面からも難しくなります。国際経営開発研究所(IMD)がまとめた「2021年世界デジタル競争力ランキング」では、日本は64カ国中28位となっており[3]、デジタル化がまだ取り組まないといけない課題のようですが、withコロナの時代ではデジタル化への取り組みが必要に迫られて強化されているため、日本でもテレワークを提供できる業種・職種が徐々に増えていくだろうと考えられます。

しかし、デジタル化など実質的なハードルが取り除かれたとしても、日本におけるテレワークの将来は、最終的には企業とその従業員の意見にかかっています。

第3回「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(内閣府、2021年4-5月)では、第1回調査(2020年5-6月)と比較して、調査対象の10のテレワークのデメリット(社内での気軽な相談・報告が困難、取引先等とのやりとりが困難、機微な情報を扱い難いなどのセキュリティ面の不安など)のうち、9つでデメリットを感じている就業者の割合が若干減少しています。(第1回目の調査から増加があったデメリットは「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」のみ。)

また、新型コロナ拡大前と比べて生産性が増加したと回答した就業者の割合も第1回調査から徐々に増加し、生産性が減少または大幅に減少したと回答した就業者は減少しています。[1]

企業側は、毎日新聞社が国内の主要企業126社を対象に実施した調査では、新型コロナの流行が収束した後もテレワークを継続したいとする企業が9割に上っています。[4]

上記からは、日本は少なくとも新型コロナ以前のテレワーク実施率に戻ることはないと予想できそうです。また、日本がデジタル化を促進するならば、特定の産業や職業では今後テレワークの実施率が増加する可能性もあると思います。(スウェーデン出身 S.B)

[1](日本語)https://www5.cao.go.jp/keizai2/wellbeing/covid/pdf/result3_covid.pdf

[2](英語)https://www.oecd-ilibrary.org/docserver/d5e42dd1-en.pdf?expires=1637815978&id=id&accname=guest&checksum=5E3260C7A658B3BAAB8406EDE4DCEB5A

[3](英語)https://www.imd.org/centers/world-competitiveness-center/rankings/world-digital-competitiveness/

[4](日本語(有料記事)) https://mainichi.jp/articles/20210130/ddm/003/020/145000c
(英語)https://mainichi.jp/english/articles/20210203/p2a/00m/0li/036000c

 

<ある通訳の日誌>詩の世界 詩のこころ 6

2021年11月26日

以前から旅ブログを送ってくれているフランス語通訳の橋爪さんが、大好きだという詩の世界について寄稿してくださいました。今回は第6回。ルバイヤートは世界史などでも習う、11世紀ペルシア(イラン)の詩人ウマル・ハイヤームの四行詩集の題名です。19世紀イギリスの詩人、エドワード・フィッツジェラルド(Edward FitzGerald)による英語訳で世界中に知られるようになりました。日本語への翻訳は、明治時代から多くの訳者によって翻訳されてきました。森亮は1941年(昭和16年)フィッツジェラルドの英訳から日本語へ訳しています。戦後は、小川亮作がペルシャ語原典から1949年(昭和24年)岩波より出版し、その他多くの訳者たちもペルシャ語原典あるいはフィッツジェラルドの英訳から翻訳をしてきました。


詩の世界 詩のこころ 6
橋爪 雅彦
1
フィッツジェラルド
森(もり) 亮(りょう)訳
オーマー・カイヤム「ルバイヤート」四行詩

第一回
第二回
第三回
第四回
第五回
第六回

■第二版で消えた詩
フィッツジェラルドは1859年に初版75首を出版しました。そして1867年のフランス人ニコラのペルシャ語原典からの仏訳が出版された後、フィッツジェラルドは1868年第二版110首を発表しました。

初版から第二版へ移ったとき、どうしたわけか、初版の第37歌が無くなっています。この37歌は、最初にお話しした亀井勝一郎の「恋愛論」の中にも引用されていて、私が常日頃愛誦する最も好きな歌の一つです。

第三十七歌(森 亮訳)
ああ、さかずき満たせ。かこつともかこつとも
甲斐なくて時は我等が足もとをすべりゆくなり。
きし昨日を、又いまだ生れぬ明日を
憂ふをやめよ、今日の日の楽しくあらば。

ああ さかずきを満たしなさい。嘆いたところで無駄なんです。
時間は私たちの足元を滑るように去ってゆきます。
過ぎ去った過去のことなど、そしてまだ来てもいない明日のことなど、
どうでもいいじゃあないですか、今日という日が楽しければ。

―Edward Fitzgerald  ―XXXVII―
(フィッツジェラルド第三十七歌)

Ah, fill the Cup; -what boots it to repeat
How Time is slipping underneath our Foot:
Unborn TO-MORROW and dead YESTERDAY
Why fret about them if TO-DAY be sweet!

ニコラ版にはどこを探しても上記のような歌はありません。マッカシー版にもありません。
戦後、多くの専門家がペルシャ語原典から和訳するようになりました。小川亮作、陳瞬臣、岡田恵美子のペルシャ語原典からの和訳を参照しましたが、上記の詩は見当たりません。

この三十七歌は、言うなれば、フィッツジェラルドの創作だったのでしょう。オーマー・カイヤムの本質をとらえた素晴らしい詩ですが、いかんせん、原典には無いものと言ってもいいでしょう。だから、原典から直接訳した仏人ニコルを意識して、第二版ではこの三十七歌を削除することになったのでしょう。惜しいことです。

しかしカイヤムのエッセンスが息づいています。美女を片手に、もう一方の手でワイングラスを傾け、今日という一日こそ、もう去って再びは現れてこない一日。この一日を愛さないで何の人生でしょう!
While you live, Drink! -for once dead you never shall return. (第三十四歌の一節)

初版三十七歌を矢野峰人という訳者は次のように訳しています。
第三十七歌(矢野 峰人訳)

さかづき満たせ、ゆく駒の
はやきうらむも甲斐なけむ、
まだ見ぬ明日も過ぎし日も
今日だに善くば何かせむ。(矢野 峰人「ルバイヤート集成」より)

(矢野 峰人 国書刊行会「ルバイヤート集成」表紙より)

フィッツジェラルドの初版全75首をすべて七五調の完璧な文語定型詩で訳出しているのには敬服します。「ゆく駒」とは、馬に例えていますが、過ぎ去り行く「月日」のことです。月日は飛び去るように去ってゆきます。「疾(はや)きうらむ」も甲斐なきことです。今日さえよければ、他のことはどうでもいいのです。

参考までにフランス人Charles Grolleauの訳を掲げます。
XXXVII
Ah!remplis la Coupe. . .Que sert de répéter
Que le temps glisse sous nos pieds :
DEMAIN n’est pas né, HIER est mort,
Pourquoi se tourmenter à leur sujet si l’AUJOURD’HUI est doux!

Que sert de répéter は若干文語調で、現代の普通の文にすれば、A quoi sert-il de répéterになり、「くどくど嘆いたところで、それが何になる」という意味です。

今日という日は二度と帰りません。この一瞬こそ、人生そのものです。美しき女性も、この一瞬を置いて、いつ愛することができるのでしょう。駿馬よりも早く、月日は去ってゆきます。

■ 大伴旅人 酒を讃むる歌
亀井勝一郎はその「恋愛論」のなかで、オーマー・カイヤムに非常によく似た詩人として、日本の大伴旅人(おおとものたびと)を引き合いに出しています。「旅人(たびと)をしてペルシャの宮殿の水静かな噴水のそばに座せしめたならば、必ずや彼はカイヤムのような思想詩人になっていたかもしれない」。

旅人の歌13首から5種を引用して論じています。その中からひとつ:
今の世にし 楽しくあらば来む世には 虫にも鳥にも吾はなりなむ」(巻3 第348)

(今 生きているこの世が楽しいならば、来世には虫にも鳥にもなっても構わない。)

仏教思想が朝鮮経由で日本へ入り始めたのは、古墳時代です。5世紀から6世紀にかけて、日本へ渡来した朝鮮半島の人びとによってもたらされました。
大伴旅人が生きていた(665年―731年)飛鳥時代から奈良時代、仏教思想は色濃く人々の心の中へ浸透していきました。

当然、旅人の心の中にも仏教の戒律、とくに五戒を意識していたはずで、その五戒の中に酒を飲んではならないとする「不飲酒戒」(ふおんじゅかい)がありました。

因みに仏教でいう五戒とは、「不殺生戒」(ふせっしょうかい)、「不偸盗戒」(ふちゅうとうかい)、「不邪淫戒」(ふじゃいんかい)、「不妄語戒」(ふもうごかい)、そして最後に「不飲酒戒」(ふおんじゅかい)です。

5世紀から6世紀にかけて日本へ入ってきた仏教は、おそらく、かなり原始仏教の名残をとどめ、戒律というものも当時の日本人へ重くのしかかって来たに違いありません。
「不飲酒戒」、酒を飲めば、死後、輪廻転生があることになっていますから、虫や鳥になって生まれ変わってきてしまう、という「脅し」が随分と精神に作用したに相違ありません。

いや、それでも酒を飲む、虫や鳥に生まれ変わっても構わない、と言った気概がこの歌には見てとれます。いや、もっと開き直って、次のようにも歌います。

酒の名を ひじりおふせしいにしえの 大きひじりことよろしさ」(巻3 第339)
(酒の名を聖人と名付けた昔の大聖人がいる。その言葉のなんと適切なことよ。)

日本人も、最初は「不飲酒戒」とその来世の報復を怖がったでしょうが、年代がたつにつれ、戒律は次第に私たち日本人の意識から遠ざかっていきます。

現代の私たち日本人は、この戒律というのがどうもよくわかりません。ですから、日本で仏教と言っても、知人や親族が亡くなれば寺の葬儀に参列し、また寺には祖先の墓があり、祖先の墓参りをしたり、7回忌とか13回忌とか言って、亡くなった人たちの供養をしたりといった程度のことです。したがって、寺とか寺の坊さんは、先祖供養のためにいる存在という程度の認識です。

「不飲酒戒」も私たちにはわかりませんが、「不邪淫戒」はもっとわかりにくいものです。不道徳な性行為をしてはならないという意味の戒律ですが、これが全く私たちには理解できない。なぜか、いったい性行為の何が不道徳なのか。
(私などは、性行為はこころの底から神聖なものだと思っています。そして性行為の絶頂の瞬間、人生の生きている最大の喜びを感じる瞬間でもあります。)

私たちは、坊さんに愛人がいたりしても、昔からちっとも不思議がらない民族です。坊さんが、「般若湯」(はんにゃとう)などと言って、昼間から酒を飲んでいても、一向に不思議がらない民族です。
したがって、仏教の五戒は、日本には根付かなかったのです。第一、私たちは表向き仏教徒でありながら、五戒などという言葉は聞いたことも見たこともないのが普通です。

もうひとつ旅人の歌を挙げておきます。

生けるもの つひにも死ぬるものにあれば 今あるほどは楽しくらな」(巻3 第349)

束の間の人生です。「時」が私たちの足元を滑るように去ってゆきます。それだからこそ、一層の哀惜の念をもって、人生を、酒を、女性を、セックスを愛するのが、本来の人生ではないでしょうか。

小川 亮作の訳からカイヤムの詩を掲げて今日は締めくくります。

ルバイヤート 第87歌 小川 亮作訳
恋する者と酒飲みは地獄に行くと言う、
根も葉もないたわごとにしかすぎぬ。
恋する者や酒飲みが地獄に落ちたら、
天国は人影もなくさびれよう!
―続くー


橋爪さんの旅ブログはこちら↓

2020年12月23日マダガスカル④~マダガスカル風景~
2020年11月27日 マダガスカル③~2009年のマダガスカル政治危機
2020年11月26日 マダガスカル②
2020年11月17日 マダガスカル
2020年10月27日エチオピア
2020年10月15日 ジブチ②
2020年10月9日 ジブチ
2020年 8月25日 フランスのミヨー大橋
2020年 8月11日 碓氷峠とアプト式鉄道
2020年 6月8日 月夜野にて
2018年 6月8日 童謡「ふるさと」の故郷
2018年 4月18日 セネガル☆アフリカ再生記念碑
2018年 4月9日 セネガル☆ゴレ島にて
2016年 5月12日 ギニアだより☆VOL.3

 

<めじろ奇譚>日本のアニメについて(鬼滅の刃ブームについて思う事)

2021年11月23日

毎度お世話になっております。フランス語の通訳をしております芹澤です。
弊社では時々社員にブログのタイトルを割り当てられるのですが、今回私には表記のタイトルが振られてしまいました。

鬼滅の刃のブームについて思う事、という題材を頂いてしまったのですが、正直に白状いたしますが、私は鬼滅はアニメも漫画も全く見ておりません。今でも漫画は結構好きでKindleで電子漫画を購入して読みますが、最近はアニメもほとんど全くみていません。おまけにテレビも持っていないのです。ですので、私には鬼滅の刃やエバンゲリオンなどについて話すことは難しいのです。なぜエバンゲリオンを出したかと言いますと、これも最初のアニメが出てきた頃から知ってはいますが、1話も見たことが無いからです。

鬼滅の刃を見る気にならないのは、話が結構シリアスなんではないのか、と思ってしまい、ジブリのアニメの様に見たいという気分にならなかったのです。ジブリのアニメは結構好きでほぼ全部みているのですが。それはそうと、このアニメと漫画が流行っていて、封切された映画がすごい人気で、という話はテレビは見ていなくてもラジオで話題になっていたり(ラジオ好きなんです)、ネットのニュースで見かけたりしました。もう何人の人がみた、という話を聞いて思い出したのは「千と千尋の神隠し」でした。というより、動員人数でいつ千と千尋を抜くんだ、という話題をラジオでやっていたのです。私は宮崎アニメは好きで結構見ています。高校生の頃にはナウシカにはまりました。というのも、高校の生物の先生が当時とても高価だったビデオを買い、「ナウシカを買ってしまった。面白いし、お前ら文系私立を受験するのであれば生物は試験科目じゃないから、俺の授業では息抜きでビデオみせてやる。」というので生物の授業のたびにナウシカを見て、はまったわけです。後年DVDが出てきてからラピュタを見ました。そして、「千と千尋の神隠し」が封切られたときは私も劇場に行って見ました。それ以来の盛り上がりなのでは、と思ったのです。

近年アニメや漫画もユニバーサル、というか全世界で流行っており、アニメ好き、というのも市民権を得ていると思いますが、普通のジジババの世界にまではやらせる、というのはすごいと思うのです。流行ってからしばらくたちますが、流行がすたれた、という感じではなく、鬼滅柄のマスクをした小学生の男の子とか、巾着ぶくろみたいなのをもった子供もみかけます。なので、これだけ一般に流布したアニメも無いのではないでしょうか。絵にしても、おじさんになってくると美少女系の絵はどれも同じに見えてきて、ゲームにしてももうちょっと違う絵のはないか、と思ってしまうのです。リアルすぎるのも余り好きではないですし。。。。

私は以前フランスに住んでいました。もう30年以上前の話なので当時はインターネットなど影も形もありません。私は本が大好きで、学生の頃は文庫であれば毎日2~3冊は読んでいました。
ですが、日本語の本はたまに両親が日本から仕送りを送ってくれた時に入っていたものや、ごくたまにたまにパリに行って手に入れるものでした。当時私の住んでいた町にはまだフランスの新幹線であるTGVが来ておらず、パリまでは列車で8時間ほどかかりました。パリで日本の倍はする(日本で500円の文庫本なら1000円)本を数冊購入し、待ちきれずに帰りの列車の中で全部読んでしまうのでした。
当時日本のアニメや漫画に興味を持つ人が結構フランスの田舎にもいて、そういった人たちには日本の漫画やアニメに関するお店を始めたりする人もいました。そんな彼らが所有する日本の漫画を翻訳してやる、とか言って借りたりして読んでおりました。髪の毛が逆立って金髪になる、戦ってばかりの漫画なんかも新刊が出たら翻訳して日本の漫画に付けて売ったりする友人もおりました(これはもう時効かと思います)。思えば、そんな事をしてフランス語の文章力を培っていたのかとも思います。でもまあほとんど擬音ばっかりだったような気もいたしますが。。。。。

たまにはアニメも、とか言いたいところですが、貧乏な留学生の事、所有するテレビは5~6インチの白黒テレビ、アナログのラジオの様にダイヤルを回してここらへん、とチューニングし、アンテナを伸ばして向きを変えて、こっち向きがよい、とかやってテレビを見ていたものです。フランスのテレビは結構見ていましたから子供向け番組でやっているアニメは結構見ていました。不思議の海のナディアは吹替も良く、SF好きな私にはとても面白かったです。色がついていなくても不思議とわかるものです。私はF1が好きなのですが、F1はそれぞれのチームで大体2台ずつあります。各チームのスポンサーにより車が塗られているのですが、ゼッケン番号は違うけれど同じ車が2台ある訳です。小さな白黒の画面でみても違いが見分けられるようにはなっていました。

話が飛んでしまいましたが、そんなわけで今はパソコンやスマホでネットで動画が簡単にみられて昔のアニメとか見られるサイト(合法かどうかは分かりませんが。。。)もあったりします。こうやって当時を思い出すと隔世の感がいたします。でも当時から日本のアニメや漫画は流行りだしていましたが、テレビ番組としては子供向けの番組の中で流されていました。どう見ても中学高校生以上向けと思われる「めぞん一刻」なんかも子供向けに流されていて、こんなの子供見るのかな、と思っていましたが結構人気があったようです。めぞん一刻の管理人さんがジュリエットという名前になっていて主題歌もJuliette, je t’aime(ジュリエットジュテーム)と歌っていました。今でもそのメロディが耳に残っています。という事で脱線続きで、単に私の回顧話になってしまいました。

でも私としては、当時フランスで日本のアニメや漫画を見ていたおかげでフィギュアの自作に乗り出し、商品化までも考えた、という経歴から今回は思えば懐かしい、楽しい話題を振って頂いたと思います。アニメや漫画の話からはどんどん離れていきますが、アニメや漫画の登場人物のフィギュアを製作する話に次回つなげていきたいと考えております。

おあとがよろしいようで。。。(落語も大好きで在仏当時送ってもらった古今亭志ん生の落語のカセットを繰り返し聞いておりました。)

日本のアニメについて(鬼滅の刃のブームについて思う事)・・どんどん脱線してしまいました。(フランス語通訳:芹澤紀青)

<めざせ語学マスター>プルプル、ゴロゴロ、オノマトペ

2021年11月22日

以前「ネイティブチェックは「ネッチェッ」になるか。拍(モーラ)と音節」で書いたアメリカ人スタッフは、オノマトペをとても嫌っていました。ピコピコ、とかガラガラ、とか幼稚な言葉が自分の口から出てくるなんて信じられない、と言っていました。

しかし日本語にはドキドキや、クルクルとか、繰り返される言葉が多いし、それらなしで文章を書いたり会話したりするのは難しそうです。日本語のオノマトペってそんなに多いんでしょうか。

 

目次

・音象徴語
・小学校で習うオノマトペ
・英語で表現しづらい日本語のオノマトペ
・擬態語と擬声語の違い
・畳語
・外国語のオノマトペ
・まとめ

 

音象徴語

擬音語、擬声語、擬態語、写生詞、オノマトペ。これらを合わせて音象徴(おんしょうちょう)語というそうです。(英語表記)sound symbolism。そういわれてみると日本語には擬音語、擬態語が多いです。自分が思いつくものをいろいろ挙げてみます。

くらくら、たじたじ、しとしと、ぴちゃぴちゃ、ぴちぴち、くるくる、すたすた、どたどた、がーん、どしん、ばたん、ぱたん、バシバシ、ピタッ、どきっ、けちけち、どろどろ、ぐだぐだ、いちゃいちゃ、にこにこ、カサカサ、パサパサ、にゃんにゃん、ワンワン、ブーブー、ガラガラ、カラカラ、くたっ、ガシャン、カシャン、ズシズシ、しずしず、つるつる、ぴかぴか、ほんわか、ぶかぶか、ふかふか、ギラギラ、キラキラ、さやさや、そよそよ・・・

きりがないな、と思って調べると「日本語オノマトペ辞典」という辞典もありました。中には約4500個のオノマトペが含まれているそうです。つまりは辞典が作れるくらい多いということですね。

日本語のオノマトペにはワンワンコケコッコーとかの擬声語だけではなく、擬音語、擬声語、擬態語が含まれています。

オノマトペはフランス語で、擬音語、擬声語、擬態語はすべてフランス語でオノマトペになります。英語では、擬音語・擬声語(英語onomatopoeia)、擬態語(英語:mimetic word)となります。英語のmimeticとは「模倣する、偽りの」とあります。

小学校で習うオノマトペ

では、小学校で習った擬音語と擬態語の違いから復習してみましょう。
学校では、
「擬音語は実際になっている音をあらわす。」
「擬態語は実際にはなっていないがその音がなっているかのようにあらわしている。」
として、問題文を解いたりしながら、擬音語や擬態語の感覚を身に着けていきます。

ちびむすドリルからhttps://happylilac.net/sk1708221548.html

選択肢の中から、適切な擬音語などを選ばせる問題です。こうして小学校などで勉強するうちに、それぞれの擬音語、擬態語に対する個々のイメージは統一されていくように思います。
でも、こういった問題を解くことは、日本語を外国語として学ぶ外国人にはとても難しそうです。

英語で表現しづらい日本語のオノマトペ

バスが(    )ゆれる。(ガタガタ
すずが(    )となる。(チリーン
雷が(    )となる。(ゴロゴロ

鈴は世界中の人が「チリーン」とは聞こえないでしょう(英語ではting-a-ling, ding-a-ling)。また、英語ではバスの「ガタガタ」は英語の場合オノマトペではなく、rattle around という動詞を使って表現します。その他にも、

カップがガチャガチャ音をたてた。(The cups rattled.)
彼はドアをガタピシいわせた。(He rattled at the door.)

など、英語はオノマトペではなく、動詞や形容詞の種類がたくさんあってそれらを使い分けることで、微妙な違いを表現しています。

空で雷がゴロゴロと鳴った。(The thunder rumbled in the sky.)
ダイヤが日の光を浴びてきらきらと輝いた。(The diamonds sparkled in the sunlight.)
君の香水はぷんぷんにおう。(Your perfume is strong.)
彼が電話をしてこなかったので彼女はぷんぷんしていた。(She was in a huff because he didn’t call her.)
そよそよと吹く春風はここちよい。(Spring breeze blowing softly feels good.)
日が照ってぽかぽかする日。(a warm and sunny day)

*例文[ジーニアス英和(第4版)・和英(第2版)辞典]より

私たちが英語の微妙な動詞の使い分けを難しいなと思うように、日本語を勉強する人はオノマトペを習得しないと微妙なニュアンスは理解できないのかもしれません。

擬態語と擬声語の違い

上であげた語を擬音語(擬声語)と擬態語にわけてみます。

擬音語(16語)  ぴちゃぴちゃ、ぴちぴち、どたどた、ピタッ、カサカサ、パサパサ、にゃんにゃん、ワンワン、ブーブー、ガラガラ、カラカラ、ガシャン、カシャン、ズシズシ、ギラギラ、キラキラ、・・・
擬態語(25語) くらくら、たじたじ、しとしと、くるくる、すたすた、がーん、どしん、ばたん、ぱたん、バシバシ、けちけち、どろどろ、ぐだぐだ、いちゃいちゃ、にこにこ、くたっ、しずしず、つるつる、ぴかぴか、ほんわか、ぶかぶか、ふかふか、どきっ、さやさや、そよそよ

擬音語か擬態語かを特に意識せず、思いついたものを書いていたつもりですが、犬の「ワンワン」や「にゃんにゃん」のように実際に聞こえる音(擬音語)だけではなく、音がしないのに音のような表現である擬態語も結構多く書いていました。

どきっ」や「がーん」などは、私は実際に口で言ってしまうことがありますが(「がーん!忘れてた!」など)、これらは実際には音が鳴っていません。これは漫画の影響も多い気がします。実際、漫画にはオノマトペが多く出てきます。

 パシャ パシャ

ドキーン

(ちゃお 2020年 3月号より)

畳語

さらに日本語には畳語(じょうご)という表現もあります。英語だとreduplicated word、フランス語だとredoublementです。

二回繰り返す言葉で、「ガタガタ」「カタカタ」「いらいら」「かさかさ」などが畳語です。試しに私が上に思いついた語から畳語をわけてみます。

畳語(31語) くらくら、たじたじ、しとしと、ぴちゃぴちゃ、ぴちぴち、くるくる、すたすた、どたどた、バシバシ、けちけち、どろどろ、ぐだぐだ、いちゃいちゃ、にこにこ、カサカサ、パサパサ、にゃんにゃん、ワンワン、ブーブー、ガラガラ、カラカラ、ズシズシ、しずしず、つるつる、ぴかぴか、さやさや、そよそよ、ぶかぶか、ふかふか、ギラギラ、キラキラ
畳語じゃないもの(10個)  がーん、どしん、ばたん、ぱたん、ピタッ、どきっ、くたっ、ガシャン、カシャン、ほんわか

上にあげた例の中でも、かなりの割合で畳語がありました。

畳語には、オノマトペではないものもあります。「山々」「人々」「並々」「青々」「白々」など、「々」を使って表すものも畳語です。畳語からオノマトペを見分ける方法の一つとして、連濁しないという点が挙げられます。オノマトペは「ころころ」、「ひらひら」、「ふつふつ」、「ふわふわ」など後ろの「こ」や「ひ」が「ご」や「び」などになることがないのに対して、オノマトペではない畳語は「ひとと(人々)」「しらら(白々)」「ふしし(節々)」「かみみ(神々)」のように後ろが濁音になります。(これを連濁と呼びます。)

また、同じ言葉を繰り返すのは完全畳語(full reduplication, complete reduplication)、「カサコソ」「ウロチョロ」「カタコト」など一部が繰り返されるのを部分畳語語(partial reduplication)と呼びます。

また、「営利に汲々(キュウキュウ)とする」、「清水が滾々(コンコン)と湧き出る」、「満々(マンマン)」など漢語から派生した畳語もオノマトペではありません。
見分けるのは難しそうですね。

ちなみに畳語ではない短い拍の擬態語、「どきっ」「くたっ」などは、普段は「ドキッとした」や「くたっとした」のように「と」がついて使われます。「っ」は瞬間的な動きを表すことが多いようです。また、「ん」がつく擬声語(どしん、ばたん、ぱたん)は弾んだ感じをイメージさせます。どちらも短い拍で短い動きを表現しているように思えます。

畳語は英語やフランス語でもありますが、日本語に比べると量は少なく、用途も限定的のようです。

英語

(オノマトペ、非公式な様式が多い)

 tick-tock(時計の音)、bow-wow(犬の鳴き声)seesaw(シーソー)、Ping pong(卓球)、hocus-pocus(だます)、hanky-panky(いかさま)、boogie-woogie(ぶぎうぎ)、itsy-bitsy (ちっちゃい)、wishy-washy(優柔不断の)、teeny-weeny(小さい)、tip-top(頂上、絶頂)、walkie-talkie(携帯用無線電話)、ragtag(寄せ集めの)、bye-bye(バイバイ)、fifty-fifty(五分五分)
フランス語

(オノマトペ、幼稚語が多い)

crac crac(ぽきぽき)、cocorico (コケコッコー)、 foufou(ばか)、loulou(犬のスピッツ)、mimi(子猫)

 

外国語のオノマトペ

では、犬の鳴き声や、猫の鳴き声、雷の音などは外国語では、どのように表現されるでしょう。英語、フランス語、スペイン語、スウェーデン語、モンゴル語、ロシア語、ベトナム語、中国語で比べてみました。猫や犬、カエルや時計の音はあっても、雷や雨の音を表す言葉があるのはアジアの言葉のほうが多いようです。

 カエル 時計  雨
日本語 ニャーニャー、
ミャーミャー
 わんわん ガアガア
ケロケロ
 チクタク ピカッ
ゴロゴロ
しとしと
ざあざあ
パラパラ
英語  meow bow-wow ribbit ribbit  tick-tock なし なし
フランス語 miaou ouaf-ouaf croa-croa tic tac なし なし
スペイン語 miau guau-guau croac croac tic tac なし なし
スウェーデン語 mjau vov vov/
voff voff
kvack  tick tack なし なし
モンゴル語 мяа хав хав гуаг гуаг чаг чаг なし なし
ロシア語 мяу-мяу
(myau-myau)
гав-гав
(guav-guav)
ква-ква
(kwa-kwa)
тик-так
(teek-tak)
громых
(gromyh)
会話に使いません、漫画にのみ
кап-кап
(kap-kap)
雨の場合だけでなく、どんな水流れでも使う
ベトナム語 meo meo gâu gâu ộp ộp tích tắc  đùng đoàng  rào rào
ao ào
中国語 喵(喵)
miāo(miāo)
汪汪
wāngwāng
呱呱
guāguā
滴答(滴答)
dīdā(dīdā)
滴滴答答
dīdā(dīdā)
ピカッ
なし
ごろごろ
轰隆(隆)
hōnglōng(lōng)
しとしと
淅沥
xīlì
淅淅沥沥
xīxīlìlì
ざあざあ
哗哗
huāhuā
パラパラ
滴答(滴答)
dīdā(dīdā)
滴滴答答
dīdā(dīdā)

このほか、英語やフランス語などで典型的な擬音語としては、鉄砲の音(Bang)、や爆発音(Boom)などもあります。日本語だと「バン」、「ドーン」といった感じでしょうか。

日本語の「こちょこちょ」は英語では「Tickle tickle! 」、フランス語では「guili-guili(ギリギリ)」だそうです。

「ギリギリ」してるところ。・・・には見えないでしょうか。

まとめ

外国人にとって日本のオノマトペは数も多くて悩ましい言葉のようです。特に音が出ない擬態語は覚えるのが大変だとか。でも病院でも「どんな風に痛いんですか?」「お腹がキリキリします。」とか「頭がズキズキします。」と日本人は答えるだけでお医者さんも理解してくれるところがあるし、普段の会話でも「雨はまだパラパラだよ。」とか「ゴロゴロ鳴ってきた!」など、よく使うので知っておいたほうが便利だと思います。

イラストや動画でオノマトペを教えてくれるサイトもたくさんあるので以前よりは勉強しやすいと思います。

国立国語研究所 日本語を楽しもう
https://www2.ninjal.ac.jp/Onomatope/category.html

さて、そんな覚えにくい日本語のオノマトぺですが、子音や母音の違いによる一定のイメージはあるようです。

例えば「い」の音は「明るい・小さい・小刻みな動き」を表します。(キラキラ、チリチリ、ヒリヒリ)。また清音が鋭い、きれいな印象を与えるのに対して、濁音は重たい、醜い印象を与えます。

清音:キラキラ、クルクル、コロコロ、さらさら
濁音:ギラギラ、ぐるぐる、ごろごろ、ざらざら

半濁音はさらにちょっと弾けた感じでしょうか。
ぴかぴか ぺらぺら、ぷるぷる、ぱかぱか、ぱりぱり、ぺこぺこ

冒頭のアメリカ人スタッフの「口にしたくない」というオノマトペはどちらかというとこの濁音系か半濁音、さらに拗音もくっつく「ぴちゃぴちゃ」とか「ぺちゃぺちゃ」みたいな音が多かった気がします。(そもそも英語でのオノマトペ自体が幼稚な印象があるんだと思います。)

拗音のオノマトペは、どうも子供っぽい、いやみっぽい意味に使われることが多い気がします。「ぐちゃぐちゃに描く」「びゅんびゅん飛ばす」とか、「いちゃいちゃする」とか「ぺちゃぺちゃしゃべる」など。「ジュウジュウと焼けた肉」など、特に変なイメージのないものもありますが「にゃんにゃん」「チュウチュウなどは、動物の鳴き声のはずなのに、ちょっと色っぽいイメージも・・。(アメリカ人でなくてもちょっと口にするのが恥ずかしいオノマトペは確かにありますね。)

日本語のオノマトペは、漫画やSNS、流行語などから、日々新しい言葉が作られています。「チャラ男」のチャラ(擬音語のチャラチャラ由来?)、「きゅんです」の「きゅん」、「ぴえん」や「ぴえんこえてぱおん」などは若者言葉ですが擬態語か擬声語か区別をつけるのが難しいくらいです。小動物のかわいさを表現する「モフモフ」は辞書にはないですが、イメージしやすい言葉です。2021年の流行語大賞には東京オリンピックのスケートボードで使われた「ビッタビタ」もノミネートされています。

そうかと思えば消えていく、あるいは今使うとちょっと古臭い印象を与える「ガビーン」や「テヘペロ」、「バタンキュー」、「うるうる」「げろげろ」など、使うと年齢がばれるようなオノマトペもあるので日本人も注意が必要かもしれません。

「壁ドン」や「親ガチャ」はオノマトペの入った流行語。さらに言えば、最近の「レンチン」は「レンジでチンする」の意味なので、擬音語つきの略語。

オノマトペなのかそうでないのかは、注意が必要です。流行している言葉にある「ワンチャン」は、犬には関係のない「One chance(まだ可能性あるんじゃない?)」の省略。どうして日本語は「ワンチャンス」の「ス」を省略するんでしょうか・・・。「ハッ!」

略語は4拍が多いけれど、オノマトペも4拍が多い!(畳語もしかり)。これは日本人の音感覚に関係あるんでしょうか?

略語についても気になる方は、是非以前のブログ「ネイティブチェックは「ネッチェッ」になるか。拍(モーラ)と音節」もご覧ください。(鍋)

参考:新版 日本語教育事典


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<めじろ奇譚>足止めされる日本への留学生

2021年11月16日

入国緩和~留学生の大多数が往来できないのは、G7の中で日本のみ~

11月8日に入国禁止対策が緩和されるとの発表がありましたが、実際には大多数の留学生が来日できないのが現実です。
学生ビザを申請するためには、まずは在留資格認定証明書(CoE)が必要です。
さらに、在留資格認定証明書の発行日によって、来日申請を出せる期間が決まっています。
外務省のウェブサイトに下記の通り記載されています。

○ 令和3年11月の承認申請対象【~令和2年4月期生】 →2020年1月1日から2020年3月31日まで
○ 令和3年12月の承認申請対象【~令和2年9,10月期生】 →2020年1月1日から2020年9月30日まで
○ 令和4年1月の承認申請対象 【~令和3年4月期生】 →2020年1月1日から2021年3月31日
○ 令和4年2月以降の承認申請対象は、実施状況を踏まえて決定します。

ツイッターで行われた調査によると、2021年の11月・12月に来日申請できる留学生は全体のうちたった14%です。そして、申請を出してから審査時間・その他の手続きも非常に時間がかかります。現時点で申請しても2021年の年末までの来日は困難です。

(上)Students, workers, spouses stranded outside Japanというツイッターのグループが行った調査

出入国在留管理庁によると、2019年上半期の留学生数と比べ、2021年上半期に入国できた留学生数は10%にまで減りました。

(上)来日できず海外で待機している留学生たち

PCR検査・ワクチン接種済み・隔離期間についても同意しているにも関わらず、入国禁止の状況が続いています。オンラインで授業を受けている多くの留学生が、時差のため夜中に授業を受けたり、生活のリズムが乱れたりしているのが現状です。

留学生が来日できないことによって、人手不足という問題を抱えている日本にも悪影響がでる可能性があります。

さらには日本に対する信頼が損なわれる恐れもあります。(ダミアン)

 

<めじろ奇譚>サプール(sapeur)はかっこいい!

2021年11月11日

フランシールのフランス語といえば、JICAのアフリカ案件の翻訳や通訳派遣を数多く取り扱っているのですが、今日は日本から遠く離れたアフリカから、Sapeur(サプール)についてのお話です。

実は私もテレビ(千原ジュニアの番組)を見て初めてその存在を知りました。2016年には渋谷西武で写真展も開かれたそうですね。「サプール協会日本支部」という組織もあるようです。

「サプール」とは?
サプールとは、コンゴ共和国、コンゴ民主共和国で90年以上の歴史を持つ独自の文化で、貧しくともおしゃれを心から楽しみ、世界中の人々に愛と平和のメーセージを発信している紳士達です。(サプール協会日本支部ウェブサイトより)


サプールという名前の元になっているサップ(SAPE)とは、「Société des ambianceurs et des personnes élégantes」の頭文字をとった言葉で、文字通りに直訳すれば「エレガントで、場を盛り上げる人々の集まり」という意味です。この「ambianceurs」という単語の意味が良くわからず、同僚のフランス人Dさんに聞いてみたところ「雰囲気ambianceを盛り上げる人」という意味で、パーティーやイベントの盛り上げ役のことを指すのだそうです。

ラルース辞典にはこんな記載もありました。
En Afrique, homme qui fréquente les bars, les boîtes de nuit ; fêtard.
(アフリカにおいて、バーやナイトクラブに出入りする男性。お祭り騒ぎの好きな人。)
つまり、最近の言葉で「パリピ」ということなのでしょうか…… !?

WikipediaによるとSAPEの日本語訳は「おしゃれで優雅な紳士協会」や「エレガントで愉快な仲間たちの会」などいくつかあるそうですが、いずれも翻訳者の苦労がうかがえます。なお英語のウェブサイトではThe Society of Ambiance-Makers and Elegant Peopleと訳されていました。

さてフランスの植民地となっていたコンゴ共和国、ベルギーの植民地となっていたコンゴ民主共和国はそれぞれが長い戦乱を経験し、今も開発途上国です。決して安定しているとはいえない国で、サプールたちは収入のほとんどを次ぎ込んで高級ブランドのスーツを購入し、街を闊歩しています。そこには、ファッションは平和の象徴であり、華麗なファッションに身を包むことで、人としての品格を高め、戦いや武器を否定するというメッセージが込められているのだそうです。
外見もかっこいいですが、生き方がかっこいいサプールにこれからも注目したいです。
(上畑)

<めざせ語学マスター>KJ法とヴィゴツキー

2021年11月9日

今回の日本語教育能力検定試験には、アクティブラーニングの土台となる学説として、ヴィゴツキーの最近接発達領域(ZPT)が出てきました。さらにアクティブラーニングの実現方法の一つとして、プロジェクト学習が挙げられていました。学習者の能動的な学習を導く方法としてKJ法やジグソー法も挙げられています。

「あれ?KJ法が出てる!」

先日のチャンク同様(「チャンクとは?」)、まさか日本語検定でこの言葉が出るなんて驚きました。

私が体験したKJ法はブレインストーミングの方法で、グループごとに集まり、全員が決められた時間の中、とにかくポストイットにたくさんアイデアを書いて提出し合い、その後司会者とメンバーがそれらポストイットをまとめたり、発表する問題や解決方法を整理するために使う方法でした。私はこれを子供の小学校のPTAで参加することになった区の家庭教育推進員事業で経験しました。これは各区立小学校から2名~4名の家庭教育推進員(だいたいお母さんたち)が集まって「どうやったらAI時代を生きる子供を育てられるか」とか「町のコミュニティ問題」などを話し合って発表したりする学習の場です。その協働作業の一つとして行われたのがKJ法でしたが、意外な人が「こんなこと考えていたんだー」と感じられる、結構面白い体験でした。

ちなみにこのKJ法。その名前は日本の文化人類学者、川喜田二郎氏(KAWAKITA Jiro)(1920年- 2009年)のイニシャルからきています。

ではどうしてKJ法が一昔前のソビエト連邦の心理学者、ヴィゴツキー(1896年 – 1934年)につながるのでしょうか。


(ヴィゴツキーの写真:wikipedia)

彼は1936年に38歳で結核により亡くなっていますが、その短い人生の間に行った研究で、ロシアだけでなく世界の心理学に影響を与えました。芸術心理学、教育心理学を研究し、心理学と教育、哲学を教育実践、特に障害児教育に結び付けました。執筆した論文は、『行動心理学の問題としての意識(1925)』、『教育心理学(1926)』、『心理学の危機の歴史的意味(1927)』「子どもの文化的発達の問題(1928)」『児童期における随意的注意の発達(1929)『障害児のための発達診断および育児相談(1931)』、『高次精神機能の発達史(1931)』、ピアジェの『児童の言語と思考』のロシア語訳版(1931)編集、没後に『思考と言語(1934)』など数多く、芸術から哲学、歴史とその幅広い知識から、「心理学のベートーベン」や「心理学のモーツアルト」などと呼ばれたそうです。。

ヴィゴツキーの専門は発達心理学でした。彼は人間の心を理解するにはその起源を理解する必要がある、として幼児や子供の言語習得の発達を研究しました。子供の発達を研究した有名な学者としてスイスの心理学者、ジャン・ピアジェ(1896年– 1980年)もいます。ピアジェは「発達」を学び方の質的変化であり、学習者自身が学習対象を能動的に学び、知識を構成する、としていました。ヴィゴツキーはそんなピアジェを大きく評価したり、次期によっては批判したりしています。(ともに1896年生まれなので同世代の学者だったんですね。)

(ジャン・ピアジェ:Wikipedia)

ピアジェは構成主義(constructivism)として知られているのに対して、ヴィゴツキーは社会的構成主義(social constructivist)の学者として有名です。ピアジェは人間は発達に応じて能動的に、一人でも問題解決をしていける、とするのに対して、ヴィゴツキーは「人は、人やものに囲まれ、互いに影響を与えながら学んでいる。人の学びは、周囲のものや人が行動のリソースになって生じ、個人の頭の中だけで起こるのではない。学習は個人個人の中で起きるのではなく、周囲の環境とのかかわりの中で起こる」としました。

子どもの独力による問題解決の発達水準と、大人や自分より能力の高い仲間と協働で行う問題解決で見られる潜在的な発達水準との間隔を「発達の最近接領域(зона ближайшего развития、 (the zone of proximal development:ZPD)」と呼び、他者の媒介(mediation)を得て、この領域を内化することで発達が進むと考えました。このような考え方は状況論的学習論(situated learning)と呼ばれています。

「しかしなぜ今ヴィゴツキー?」

しかし、ピアジェの方が長生きしているし、日本語教育検定試験に出てくる理論はチョムスキー(1928年~今も現役)以降は結構新しい理論が多いのに、1934年に亡くなっているヴィゴツキーの理論がなぜ今話題になるのでしょうか。

日本では以前から「教師から生徒へ」という一方通行の教育がなされていましたが、1960年あたりから、この教師中心の一斉教育が果たして本当に学習者たちの発達に適しているのかが問題になってきました。教師中心の学習環境は「指示待ち人間」を増やしてしまったという反省から、学習者中心の学習環境の必要性が高まってきました。

また、学習心理学の面からも、行動主義・認知主義(「チョムスキー・ナウ(Chomsky, Now)!」参照)が、学習を個人の中で起こる客観的なものと考えているのに対して、学習は学習者自身が知識を構築していくと考える構成主義が注目されるようになっていました。構成主義では、知識とは誰かによって形成されるのではなく、体験と通して自分で作り上げていかなければなりません。

中でも、知識は状況に依存しており、学習は共同体の中で相互作用を通じて行われる、学習とは常に他の学習者との関わりあいの中で行われる共同体的な営みであると考える、ヴィゴツキーの状況論的考え方は時代的にも見直されることになりました。

現在、ピア・ラーニングやピア・リーディングのような協働学習では、学習者が自らの能力を使って自発的に学習に参加することを目指しています。プロジェクト学習や、KJ法も学習者が能動的に参加する方法の一つとして使われています。

日本語学習においては、作文学習活動でのピア・ラーニングがあります。学習者同士が互いの作文プロセスを共有することで、書き手と読み手の相互理解を基に文章を書いていくものです。

でも・・・

正直、私が外国語の学習者だったら「先生に教えてもらいたい。」と思うかもしれません。お互いが母語話者じゃなく、なんとなく通じるけれど、100%正解じゃないし、「なんか・・・間違っている気がするけれど、でも合ってるかも・・」という学習方法にはちょっとモヤモヤ感をもってしまいそうです。ピア・ラーニングそのものには反対ではありませんが、すべてがそれで解決されるわけではない気がします。

英語版のWikipedia によると、ヴィゴツキーの概念はソ連では有名でも、1920年代に英語で本が出版されたあとも、それほど有名ではなかったようです。1978年以降、ヴィゴツキーの理論がアメリカで部分的に紹介されてから、アメリカ合衆国の社会文化人類学者や心理学者がその考え方を支持してブームが訪れました。また、1980年代になって構成主義発達心理学やピアジェの教育論が下火になったことも彼の社会的構成主義が注目された原因でもあったようです。時代がヴィゴツキーに追いついた、あるいは、最近のアメリカの心理学者がヴィゴツキーの考え方のいいとこどりをしている、というところなのかもしれません。

当人のヴィゴツキーも、将来自分のことがポストイットの試行整理術(KJ法)と一緒に試験に出ているとは想像もしていなかったでしょうね。(鍋)

<めじろ奇譚>自民党の総裁選と新しい首相

2021年11月4日

少し時間が経ってしまいましたが、2021年9月29日に自民党の総裁選がありました。
事実上、日本の首相を決めることになる総裁選で、世間の関心もある程度高かったように思います。
昨年度の総裁選は、菅さんが勝つだろうというのが大方の予想だったため、開票前から大体結果が見えていました。しかし今回の総裁選は菅さんが不出馬を表明してから続々と候補者が名乗りを上げ、自民党内でも支持が分かれて、最後まで誰が勝つのか不確かだった点も注目度を高める要因となっていたと思います。

個人的には、某有名You Tubeチャンネルで総裁選候補者を一人ずつ詳しく紹介している動画があったので、それを見ながら「この人はこういう人だったのか~」と興味深く眺めていました。
もちろん、You Tubeの情報は全て鵜呑みにしてはいけないと思いますが、経歴や人となりについて知ることができました。
例えば、岸田さんは自分の選挙区広島で選挙の時期以外も街頭に立っていて、外務大臣をしていた時でさえも広島に帰っていた、とか、高市さんは幼少期に家で教育勅語を暗唱していた、とか、細かいエピソードから何を大事にしている政治家なのかも垣間見える気がします。

開票前のメディア等での予想では、党員に多く支持されている河野さんと、自民党内の支持が厚い岸田さんが、どちらも一回で過半数には届かず決選投票になるのではないかと言われていました。決戦投票になると、他の候補者の票が岸田さんに集まるのでは、とも。

実際には一回目の開票結果は、岸田さんが河野さんを一票だけ上回っていました(党員票では、河野さんが上回っていた)。そして決戦投票にて、岸田さんが総裁に選ばれました。

その後、10月8日の所信表明演説で、岸田新首相は主に以下について話しました。
(引用:自民党ホームページ
(1) 新型コロナウィルス感染症対策
(2) 新しい資本主義
(3) 外交・安全保障

経済政策を特に重視しているようですが、「分配なくして成長なし」として、(1)働く人への分配機能の強化、(2)中間層の拡大、(3)公的価格のあり方の抜本的見直し、(4)財政の単年度主義の弊害是正に取り組むとしています。

さて、海外ではどのように受け止められているのか見てみると、イギリスのBBCは、岸田さんが選ばれたことに関して、以下のように述べています。
(引用:BBCニュース

“He is known as a moderate-liberal politician so he’s expected to steer the ruling conservative party slightly to the left.
While his critics describe him as bland and boring, he’s long been seen within the party as its future leader.”

和訳:
「彼は穏健なリベラル派の政治家として知られており、与党である保守党をやや左寄りにすると予想されている。
評論家は彼のことを面白味がなく退屈だと言うが、彼は長い間、党内で将来のリーダーと見なされてきた。」

岸田首相は「人の話をよく聞くこと」を自らの特技として掲げていますが、果たしてどのくらい、国民の声に耳を傾ける首相になるのでしょうか。
今後の政策や発言を、注視していきたいと思います。

(英語チームN)

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