<めざせ語学マスター 日常編>崩壊する日本のビジネスマナー

2024年5月13日

日本語は口を開けた瞬間から相手が上か下か、身近かそうでないかを表してしまう危険な言語だと私はいつも思っています。英語でも丁寧かそうでないか、身近な人に対するかどうかを分けることはありますが、私たちがいわゆる誰とでも「ため口」を使えるのは小学校時代くらいまで。私たちは義務教育の中で先生に対しては敬語を使えと教えられ、中学に入ると「先輩、後輩」と話し方を区別させられます。社会人になると相手が社内の人か社外の人か、同僚か先輩か、など日本人にとっても慣れるまでに時間がかかるビジネスマナーを徹底させられます。

社内の外国人スタッフたちも、お客様や同僚に応じて表現を変えているようですが、やはり尊敬語や謙譲語、さらに「あげる」「くれる」などを使い分けられる人はなかなかいません。

あなたも外国人スタッフから「教えてあげましょうか」と言われ「どうして上から目線?あなたには教えてもらわらなくても結構!」とムキになってしまったことがありませんか?本人は軽い気持ちで言っても、上司・部下のような関係性が重要な場では居心地悪く感じる日本人はまだまだいますし、時々自分が「なんだかモヤっとする」と思ったらこの手の表現のせいだった、なんてこともあります。

日本語の「あげる」「くれる」は危険な表現です。日本人が英語を勉強するときはgiveの動詞変化を覚えなければいけませんが、日本語を勉強する外国人は動詞そのものを変えなければなりません(与える、贈る、渡す、上げる、いただく、くれる、もらう・・)。さらに「教えてあげる」「貸してくれる」など、他の動詞に「あげる・くれる」がつくパターンを使いこなすためには、動詞の選択プラス相手との関係性を意識する必要があるからです。実際には技術的に動詞とくっつけるだけの日本語話者も多いです。だから上司に「教えてあげます」とか「この仕事手伝ってくれますか?」とにこやかに言ってしまう人もいます。

でもこれがどうして変なのか説明しようとすると結構大変です。そこには日本人の人間関係に対する根深い意識があるからです。

実は日本語の「あげる」「くれる」などの表現には話す相手が身近な人か、そうでないかによって分ける「視点の制約」があります。妹や家族が誰かに何かをもらったら「妹がもらった飴」などと言えますが、上司について「上司がもらった書類」などは基本言えません。難しいようですが、日本人はこれを感覚でやっています。

だから上司に「教えてあげましょうか?」とか「手伝ってくれませんか?」といえば、上司はため口をきかれたような印象を受けてしまうわけです。

英語だったら「Would you…」などをつければ丁寧になると習いますが、日本語は相手によって動詞まで変更しなければいけません。だから大変。

日本語教育の勉強をすればそのような表現の微妙さも説明してきれいな日本語を教えられる、と思って始めた学習でしたが、仕事をする上でいちいち言葉を直すのは結構大変なもの。お客様に対して失礼な表現をメールで書いているのを見つけたら注意はしますが、社内では目をつぶることがしばしば。「この仕事、代わりにやってくれますか?」と聞いている部下がいても注意せずにやり過ごすこともしばしば。こうして日本のビジネスマナーは崩壊していくのか、あるいは進化していくのか、と思うのでした。

(鍋田)

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