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<めざせ語学マスター>ハヒフヘホの話とキリシタン

2021年8月3日

オフィスでパソコンに向かっていると、フランス人の新人スタッフが私の席までやってきて言います。
「すみません、アンコください。」
「え??あんこ(餡子)?」
「あ、んこです。」
「ああ、判子ね。」

そう、フランス人は「H」の発音が苦手です。母音だけで16個(!)も使い分けられるのに、Hの発音がないのはすごく不思議。私の名前「ひさえ(HISAE)」も、フランスでは「イザエ、イザエ」と呼ばれていました。

今日はそんな「H」の発音の話。

先日サ行の発音の中で「シ」だけは「シャ・シ・シュ・シェ・ショ」の「シ」を使っていて
実際は下のように子音が違うと書きました。(「RとLが聞き分けられない」

*調音法 (口腔内における呼気の妨害の方法)の摩擦音とは、口の中を調音点で狭めて作り、隙間に呼気をとおして出す音です。今回出てくるサ行・ハ行の発音は全て摩擦音ですが、この他マ行、ナ行は鼻音、パ行・バ行、カ行は破裂音、ラ行は弾き音、など日本語の発音には6つの調音法があります。

上の図を見ると、シを発音するとき、舌の位置がやや後ろにずれているのが分かります。「スィ」(歯茎音:上の歯茎に舌端または舌尖を接触または接近させて調音する子音)と「シ」(歯茎硬口蓋音:歯茎から硬口蓋にかけての広い範囲で舌を接近ないし密着させることによって調音される子音)の間の差は微妙です。

しかしハ行はもっと違います。

調音点(どこに空気をぶつけて音をだしているかというポイント)は、少しずれる、とかではなく喉奥(声門)から口先(両唇)までと口の中の前後で大きく変わっています。同じハ行に分類されているのに、子音としては全く違っているのです。翻って、英語のheの発音は[híː], who の発音は[húː] です。日本語の「ヒー」や「フー」とは違って、どちらかというとhe は「ヘィー」、who は「ホゥー」という感じで発音するもののようです。

驚くことに、奈良時代以前のハ行は全て「p」だったとか。(これを示す決定的な歴史的資料は存在しないそうですが。)例えば今では「一本 (イッポン)、二本 (ニホン), 三本(サンボン), 四本(ヨンホン)・・」と言っているこの「本」も元は全て「ポン」と呼ばれていました。その後、「p」の発音が [ p ] —> [ ɸ ]—-> [ h ]と唇音退化シンオンタイカしたのだそう。唇音退化とは、唇のあわせが徐々に緩む方向へと変化する音韻変化です。確かに「ポン」より「ほん」のほうがのんびりした印象は受けますね。

(参考)日本語では,「一本/二本/三本」を「イッポン/ニホン/サンボン」と発音するのは何故ですか?

でもそれって本当?「ちはやぶる」は「チヤブル」だった?(なんか印象変わってくるー!)母上(ははうえ)はパパウエになっちゃう!(性別までかわっちゃう!)と不思議になりますが、[p]であることは証明できなくても、どうやらその昔、日本人がハ行を今の「フ」で使われている両唇を使って出す子音、[ɸ ] で発音していたことは、16世紀のキリシタン文書が教えてくれます。日本にやってきたイエズス会の宣教師たちは、キリスト教の布教のために日本語を習得し、ヨーロッパの印刷機を持ち込んでポルトガル語式のローマ字で日本語を表記しました。(日本では織田信長や豊臣秀吉が活躍していた室町時代です。)宣教師たちは図書をローマ字で書いて説法時に使ったりしていたのですが、後年、この資料によって当時の日本人がどうやって発音していたのかがわかるようになりました。

例えば、天草版『平家物語』は,16世紀の日本を訪れたキリスト教宣教師の,日本語学習向けに編集された読本(リーダー)でした。

NIFON NO COTOBA TO Hiſtoria uo narai xiran to FOSSVRV FITO NO TAMENI XEVA NI YAVA RAGETARV FEIQE NO MONOGATARI.
(日本のことばとHistoriaを習い知らんと欲する人の為に世話に和らげたる平家の物語。)

「日本」はNIFON, 「欲する」はFOSSVRV, 人はFITO, 平家はFEIQE、とハヒフヘホはFで書かれています。(ウはV、ワもV, シはXで書いたんですね。ということはウとワも同じだったのかな・・・)。FはFでも、英語のような上の前歯で下唇を少し噛んで出す音ではなかったようです。今のフの発音、[ɸ ] です。カタカナで書いたら「ニフォン(日本)」「フォッスル(欲する)」「フィト(人)」「フェイケ(平家)」になるかと思います。平家物語も「フェイケモノガタリ」と言われると別の話かと思いそうです。

もう一つの例は同じく16世紀にキリシタンたちが残した『伊曽保物語』(いそほものがたり)、『イソップ物語』を室町末期の話しことばに訳したものです。

ESOPONO FABVLAS(イソポのファブラス)

Latinuo vaxite Nippon no cuchito nasu mono nari.
(ラチン ヲ ワシテ ニッポン ノ クチ ト ナス モノ ナリ: ラテンを和して日本の口となすものなり。)

IEVS NO COMPANHIA NO
Collegio Amacuſani voite Superiores no gomen
qiotoxite coreuo fanni qizamu mono nari.
Goxuxxe yori M.D.L.ⅩⅩⅩⅩⅢ.

IEVSのCOMPANHIAの- Collegio
天草に於いてSuperioresの御免許としてこれを版に刻む物なり.
御出世よりM.D.L.XXXXⅢ.

ここでも「版」は「fan」と書かれています。 当時は「ファン」と発音していたことが想像できます。

日本語参照:国立国語研究所:日本語史研究用テキストデータ集

ところで、上の表紙を見て、「平家物語」では「NIFON」『伊曽保物語』では「NIPPON」と書かれていることにもお気づきでしょうか。今でも「日本」の正式な読み方は「ニッポン」でも「二ホン」でもいいそうですが、このころからどっちでも良かったんでしょうか。はたまた[ p ]→[ f ]→[ h ] という唇音退化の途中だったのか・・・。気になりますね。(鍋田)

参考サイト :
国立国語研究所 大英図書館が所蔵する天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』(Shelfmark: Or.59.aa.1) 

国立国語研究所:ヨーロッパに渡ったキリシタン資料が解き明かす中世日本語―天草版『平家物語』『伊曽保物語』『金句集』画像Web公開 

国立国語研究所:日本語史研究用テキストデータ集
Rômazi Aiueo(ローマ字 あいうえお):ポルトガル式 ローマ字に ついて

「英語びより」:発音についてわかりやすく、しかし専門的に説明してくれるサイト(唇音退化についても説明があります)

楽学日本語教室:サ行・ハ行以外の発音やアクセントなど発音一般について詳しく書かれています。

 

<めじろ奇譚>ピエ・ノワールとフランス語の辞書

2021年7月29日

弊社にて力を入れている言語のひとつがフランス語で、フランス語圏アフリカの国際協力案件の翻訳や通訳派遣等のご依頼を多く頂戴しております。今回、「フランス語とアフリカ」についてのご紹介として受け取ったバトンのテーマは「ピエ・ノワール」です。

「ピエ・ノワール(pied-noir)」とは、直訳すると「黒い足」で、特に人の出自の言及に用いられる言葉とされています。広義ではフランス領北アフリカからの引揚者を指し、主にアルジェリア出身のフランス人を意味しているようですが、厳密な対象に関しては多くの議論が行われているそうです。

この言葉の起源は諸説あり、アルジェリアに上陸したフランス軍の靴が黒かったという説が由来として広く理解されているそうです。しかし、先住民はフランス軍や入植者を示す独自の言葉を持ち、フランス語の言葉をあえて使う必要がない点から、この説を否定する研究者もいるため、起源は定かではないようです。他にも、ワイン醸造の葡萄を踏む過程で黒く染まった足の象徴だとする説や、アメリカのネイティブアメリカン「ブラックフィート」の名をとり若者が自ら使用したという説もあるそうです。

ピエ・ノワールの著名人といえば、コロナ禍で注目を浴びた小説「ペスト」の作者アルベール・カミュ(Albert Camus)や、世界的デザイナーのイヴ・サン=ローラン(Yves Saint-Laurent)は日本でも有名です。

翻訳と関連し、特に注目したのがポール・ロベール(Paul Robert)という人物です。フランス語の二大辞書といえば、ラルース(Larousse)とロベール(Robert)ですが、後者を編み出したのがまさにこの辞書学者なのです。
ポール・ロベールは1910年にアルジェリアのオルレアンヴィルで生まれ、高校と大学の学部時代をアルジェで過ごし、1934年からパリで法学を修めます。戦争の勃発により兵士として動員された経験もあります。1945年に博士号を取得しますが、博士論文執筆時に納得のいくフランス語の辞書がないことから、新しい辞書の制作を志します。1952年出版の最初の分冊がアカデミー・フランセーズから表彰を受け、その後は1964年に大辞典『グラン・ロベール』、1967年には小辞典『プチ・ロベール』が完成、フランス語辞書として台頭し現在に至ります。

私どもが日々参照する辞書にもピエ・ノワールが関連しているというご紹介でした。
フランス語の翻訳や通訳等に関してもぜひお気軽にお問い合わせください。
(フランス語担当)

【参考文献】
・大嶋えり子, 世界引揚者列伝Vol.1 ピエ・ノワール列伝 人物で知るフランス領北アフリカの引揚者たちの歴史, 合同会社パブリブ, 2018.
・足立綾, ラパトリエとピエ・ノワール ―<アルジェリアのフランス人>の仏本国への「帰還」―, 『文化人類学』80/4 2016, p.569-591.
(online), https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcanth/80/4/80_569/_pdf/-char/ja, (参照2021-06-30)
・Wikipedia, https://fr.wikipedia.org/wiki/Pieds-noirs#D%C3%A9finitions_de_%C2%AB_pied-noir_%C2%BB, (閲覧日2021-06-30),
・Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%82%A8%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB, (閲覧日2021-06-30),

<めざせ語学マスター>日本語は膠着している

2021年7月27日

中国語、チベット語、ビルマ語は孤立していて、日本語、モンゴル語、トルコ語は膠着している。ドイツ語、フランス語、イタリア語は屈折しているが、アイヌ語、アメリカンインディアン諸語は抱合している・・・。

どういう意味!?

というわけで、今回はこの類型についてのお話。
一般に膠着語とは、語の文法的な機能が語に付加される、独立性のない形式で表される言語です。膠着語は英語でagglutinative languages、日本語と同じく「くっつく言語」です。

例えば、

花が咲く。
花が咲いた。
花が咲いている。
花が咲いていた。
花が咲きそうだ。
花が咲くかもしれない。
花が咲いていたかもしれない。

など、動詞は「咲く」なのに、その活用のあとに「た」「ている」「ていた」「そうだ」「かもしれない」など、接尾語がどんどんくっついていきます。これが特徴です。膠着語は接尾語だけでなく、「お弁当」の「お」や「無感覚」の「無」のように頭につく場合もあります。

上の例を今度は中国語にしてみます。

花が咲く。
花が咲いた。
花が咲いている。
花が咲いていた。
花开。/开花。

(文脈次第で、
「花が咲く。」にも、
「花が咲いた。」にも、
「花が咲いている。」にも、
「花が咲いていた。」にも解釈可能。)

花が咲きそうだ。 花快要开了。
花が咲くかもしれない。 花可能会开。
花が咲いていたかもしれない。 花可能已经开了。

最初の4文は同じ表現で表すことができます。
また、「かもしれない」などは「可能」などが入っているのが分かります。日本語のように動詞にどんどん他の語がくっついているわけではないようです。
中国語のように語が形態変化せず、名詞や動詞のような主要な品詞の文法的機能は、語順によるか、特別の語を用いて表される言語を「孤立語」(Isolating language)といいます。

次はどうでしょう。
(英語)

花が咲く。 The flowers bloom. /  The flower blooms.
The flowers will bloom. /  The flower will bloom.
花が咲いた。 The flowers bloomed./ The flower bloomed.
花が咲いている。 The flowers are blooming./ The flower is blooming.
The flowers are in bloom./ The flower is in bloom.
花が咲いていた。 The flowers were blooming. / The flower was blooming.
The flowers were in bloom. / The flower was in bloom.
花が咲きそうだ。 The flowers are about to bloom. /The flower is about to bloom.
花が咲くかもしれない。 The flowers may bloom. / The flower may bloom.
花が咲いていたかもしれない。 The flowers may have bloomed./The flower may have bloomed.

(フランス語)

花が咲く。 Les fleurs fleurissent. / La fleur fleurit.
Les fleurs fleuriront. / La fleur fleurira.
花が咲いた。 Les fleurs ont fleuri. / La fleur a fleuri.
花が咲いている。 Les fleurs sont en train de fleurir. / La fleur est en train de fleurir.
Les fleurs sont en fleurs. / La fleur est en fleur.
花が咲いていた。 Les fleurs étaient en fleurs. / La fleur était en fleur.
花が咲きそうだ。 Les fleurs sont sur le point de fleurir. / La fleur est sur le point de fleurir.
花が咲くかもしれない。 Les fleurs peuvent fleurir. / La fleur peut fleurir.
花が咲いていたかもしれない。 Les fleurs peuvent avoir fleuri. / La fleur peut avoir fleuri.

日本語では複数か単数かは表現していなくても、英語やフランス語にする場合はそれを決める必要があります。上の表ではthe やla, les などの定冠詞で表していますが、さらに a やune, des のような不定冠詞となる場合もあります。さらに日本語の動詞は基本的に原則動作動詞で、辞書系「咲く」が未来を表します。一般的に「(春には)花が咲く」のような場合は現在形、「(今から)花が咲く」は未来を表します。

上の文章を見れば明らかなように、英語やフランス語になると、「かもしれない」をmay のように助動詞を付けることがありますが、基本的には動詞(bloomやbe動詞)を未来形や過去形などに変化させて細かいニュアンスを表します。これが屈折語(inflected languages)です。

孤立語 isolating languages 中国語、ベトナム語、ラオス語、タイ語、クメール語、サモア語、チベット語、ビルマ語など
膠着語 agglutinative languages 日本語、朝鮮(韓国)語、モンゴル語、トルコ語、ハンガリー語、ツングース諸語、フィンランド語、タミル語、ウイグル語、ウズベク語など
屈折語 inflected languages 英語(*)、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ロシア語、ラテン語、アラビア語など
抱合語 polysynthetic languages アイヌ語、アメリカンインディアン諸語

(*)英語は名詞や動詞があまり活用しないので孤立語的な特徴を持っているとも言われています。

この孤立語、膠着語、屈折語という類型の起源は、ドイツのカール・ヴィルヘルム・フォン・フンボルト(Friedrich Wilhelm Christian Karl Ferdinand Freiherr von Humboldt、1767 – 1835年)にさかのぼります。

彼はドイツ(当時はプロイセン)の貴族、外交官であり教育制度改革者です。弟は探検家、地理学者のフリードリヒ・ハインリヒ・アレクサンダー・フォン・フンボルト。弟は虫や植物が好きで南北アメリカへの大冒険もした人ですが、兄のほうは、書斎にこもって勉強するタイプだったようです。貴族・外交官というポジションを生かし、世界中に散らばった宣教師や商人、外交官、植民地行政官、探検家、学者仲間(弟を含む)というネットワークを得て、様々な言語の資料を取り寄せては、その形態と文化の違いを解明しようとしました。そう、19世紀の初頭といえば、ヨーロッパは植民地開拓の時期、日本はまだ鎖国している江戸時代。今年NHKの大河でやっている渋沢栄一は1840年生まれで、まだ生まれてもいません。

植民地時代の言語研究の目的はやはり植民地を作るためであり、非ヨーロッパ人を改宗させるためでした。フンボルトを含めて、当時の学者たちは、名詞や動詞の内部で音を変化させて単数か複数か、主語か目的語か、男性名詞か女性名詞か、過去か現在かを示す屈折語は最も複雑に入り組んだ概念を組み立てることができる優位な言語であると考えていました。

彼はスペイン北部のバスク地方へ旅をしたときに、古典の伝統や書き言葉による文学がなく、インド・ヨーロッパ語族とは関係のない、「未開の」言語、バスク語に出会って「あこがれ」を抱きます。そのあこがれはアメリカ先住民の言語に向き、バチカンでプロシア大使をしていたときにイエズス会が持ち帰ったアメリカ先住民の資料を研究し始めました。そこでこの言語が「単語の内部の音を変化させて微妙な文法的差異を示すのではなく、複数の単語や単語の断片をくっつけて別の単語が形成される」、つまり「膠着語」であると分類したのです。しかし、膠着語は屈折語によって可能な「頭の回転の速さや思考の厳密さ」が阻害された言語、つまり屈折語より劣る言語だと考えました。

さらに彼は中国語において孤立語に遭遇します。中国語は単語の音の変化で文法的な関係を示したり(屈折語)、単語同士をくっつけて複雑な意味を作ったり(膠着語)せず、一つの概念を一つの変更できない単語の中に閉じ込めて、語の順序だけでそれぞれの概念が互いにどう関連しているのかを示す、世界でもっとも原始的な言語の一つにみなされるべき、としました。

しかしその後、当時ヨーロッパ随一の中国学者ジャン=ピエール・アベル・レミュザと手紙のやりとりを通じて自分の説を修正し、中国語は非常に洗練された言葉として賞賛するようになりました。ひとつひとつの単語が侵すことのできない概念を示しており、屈折語では豊富な音標識が精神の負荷を軽減するのに対して、そのような標識がない中国語では、個々の単語が合わさって全体としてどのような意味の複雑な思考を表しているのかを常に考えなければなりません。中国語で考えるのは屈折語で考えるよりも明敏さや厳密さに欠けるかもしれないが、より抽象的で深淵で複合的な解釈に適している、つまり中国語は純粋な思考の言語なのだ、という結論に達します。

(中国語=どこか仙人的なイメージ・・・だったんでしょうか?)

さらにフンボルト氏は考えます。
「中国語に屈折がないのは、使える音のレパートリーが限られていたせいで、この音声面の貧困は、中国の住民が歴史的に単一で安定していた結果だ。何世紀にもわたって中国は住民の移動や異なる言葉の混じりあいなど、音のレパートリーを豊富にする出来事を免れてきたんだ。」
通常彼は文化の交配をよしとしていましたが、ここでは中国語が自らの孤立を長所に変えたと認めました。いっぽうで、中国語自体が中国文化の歴史的な統一と安定に貢献してきたとも考えました。

このように屈折語、膠着語、孤立語と言語を分類した彼はこの考えを確固なものにしようと、テストケースを求め、マラガシ語、マレー語、ジャワ語、ブギス語、トンガ語、タガログ語、マオリ語、タヒチ語、ハワイ語などのマレー・ポリネシア諸語の研究を進めます。そしてカヴィ語という中世のジャワ島の言語の研究(「カヴィ語研究」)を未完のまま亡くなってしまいます。

今でも使われているこの言語の類型は、古典的類型論と言われています。今ではフンボルトのように(彼だけが特別なのではなく、彼の時代では一般的だった)孤立語→膠着語→屈折語の順で洗練されている、などの考え方はされなくなりました。

古典的分類以外に現在では、主語(S)と動詞(V)、目的語(O)の配置から「SOV」「SVO」「VSO」に分ける分類や、音韻対応が認められる言語から「インド・ヨーロッパ語族」「シナ・チベット語族」「アフロ・アジア語族」「オーストロネシア語族」「ニジェール・コンゴ語族」などに分ける方法もあります。

でも、古典的分類は文法的特徴として今でも使われており、「英語には孤立語的な特徴もある」など、言語の特徴を表します。

個人的には、200年以上も前のインターネットがない時代に、フンボルトを始め当時の学者たちが実に多くの資料を集めたという事実に驚きます。フンボルトは日本語についてもメキシコから輸入した日本語の入門書をかじっていたそうです。その本は鎖国政策によって日本から追い出されメキシコに渡ったイエズス会宣教師の手になるものだったとか。言語の把握が植民地拡大につながっていたことや、その分類に多少差別的な考え方が混じっていたとしても、彼らの言語に対する飽くなき探究心には脱帽します。(鍋田)

参考文献:<翻訳>ヴィルヘルム・フォン・フンボルトと言語の世界 イアン・F・マクニーリー講演、石田文子訳
言語の基礎 NAFL日本語教師養成プログラム

<めじろ奇譚>アルゼンチンとイタリアの関係

2021年7月22日

私はアルゼンチンで生まれ育ち、18歳で来日しました。
アルゼンチンと言えば、サッカーやタンゴを思い浮かべる方が多いと思うのですが、今回はそれら以外であまり日本人には馴染みのないアルゼンチンについて紹介したいと思います。

現在、アルゼンチンの人口は約4000万人、その内の6割以上がイタリア系の先祖を持っていると言われています。アルゼンチンにはイタリア系の人が多いのはなぜなのでしょうか?

アルゼンチンは14世紀から19世紀の初めまでスペインの植民地でした。1816年7月にアルゼンチンはスペインから独立し、人口を増やし国の技術を発展させるという目的で世界の様々な国の人を受け入れるようになりました。ヨーロッパの国々に広い土地を安く提供する代わりに、アルゼンチンで農業を行ってもらうという方法で移民を誘っていたそうです。独立後から20世紀中頃にかけて、内戦から逃れるため約300万人のイタリア人が移住し、その数は当時アルゼンチンに住んでいたスペイン人よりも約100万人多いものでした。

ちなみに、かの有名なアニメ「母をたずねて三千里」は、1882年のブエノス・アイレス(アルゼンチンの首都)に出稼ぎに行ったまま、音信不通になっている母アンナ・ロッシを尋ねるべく、主人公のマルコ・ロッシがイタリア・ジェノヴァからアルゼンチンへと渡る姿を描くストーリーです。

イタリア語とスペイン語は非常に似ているためお互いに母国語で話していても話は大体通じます。これは私の予想なのですが、人口の大半がスペイン語を話しているためイタリア語話者がスペイン語に寄り添う形になっていったのではないかと思います。そのため、イタリア人の方が多かったにも関わらず、公用語は既に定着していたスペイン語が保たれたのではないでしょうか。

しかし、イタリア人がアルゼンチン社会に適応し、アルゼンチン文化に染まったというわけではありません。アルゼンチン人はイタリア人から多くのものを受け継いでいます。発音から食文化、また、話す際にイタリア人が良く使うハンドジェスチャーもアルゼンチン人はよく使います。

アルゼンチンのスペイン語はそういったミックス故に他のスペイン語圏のスペイン語とは明らかに違う感じになっているため、アルゼンチン人だとすぐにわかります。イタリア語風の発音のスペイン語に話されています。一つの例としては、スペイン語では「LL」の発音は「リャ・リュ・リョ」/「ジャ・ジュ・ジョ」に近い音(地域により異なります)なのですが、アルゼンチンでは「シャ・シュ・ショ」と発音します。この発音方法をシェイスモと呼ぶのですが、イタリア語から来ている概念と言われています。

例:自己紹介でよく使われる表現
Me llamo 〇〇. (私は〇〇と言います。)
という表現があり、日本でスペイン語を学ぶ方は「メ ジャモ 〇〇」と学ぶことが多いみたいですが、アルゼンチンでは「メ シャモ〇〇」という発音になるのです。

アルゼンチンの食文化に関して調べると、長時間炭で牛肉を焼く「アサード」が良く出てきますが、実はイタリアの食文化にもとても影響されており、ピザ、パスタ、パンなども非常に食べられます。イタリア料理でよく使われる香辛料を用いて生み出された、アルゼンチンの郷土料理「ミラネーサ」などもあります。ミラネーサは直訳すると「ミラノ風」という意味を持ち、簡単に説明するとオレガノ、パセリ、ニンニクを加えた卵に薄い牛肉を浸して数時間寝かせた後、パン粉を付けて揚げる料理です。アルゼンチン人は皆この料理が大好きで、あの有名なサッカー選手「メッシ」も、あるインタビューで好物は何かと聞かれた際に「ミラネーサ」と答えています。

       

ピザに関しては有名なピザ屋が多く存在し、観光客用に有名ピザ屋のツアーなどもあるほどです。また、日本では毎月29日は「肉の日」で、スーパーや精肉店でお肉が安く手に入る日ですが、アルゼンチンではニョッキの日であり、この日はパスタ屋(パスタの麺などを売る店)でニョッキが安く提供されるため、家族でニョッキを食べることが伝統です※。

※昔は裕福ではない人たちが月末になってお金が足りないことから一番安く手に入るジャガイモで「ニョッキ」を作る習慣があり、29日をニョッキの日にしていた、という説があります。

このようにアルゼンチンはイタリアから多く影響を受け、自分達の文化の一部としています。

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あ!間違ってしまいました!こちらはYOUTUBE用のセリフですね。

アルゼンチンのみならず他の国や言語に関するコンテンツもありますので、ご興味がありましたら是非YOUTUBEチャンネルもご覧ください!

https://www.youtube.com/channel/UCGE8jlpXB4WjU0GUruRnwHw

(山本亜聖)

<めざせ語学マスター> ネイティブ社員にアンケート!

2021年7月20日

日本語教育能力試験の応募が始まりましたね。8月2日が締め切りです。急がないと!

さて私はロシア、オーストラリア、カナダ、フランス、スウェーデンなど外国出身の社員と毎日働いていますが、彼らは日本語がとても上手く、社内では会議も応対も全て日本語ですんでしまいます。どうやってそんなにうまくなったの? 意外と日本語は難しいんじゃないの? と不思議に思い、アンケートを取ってみました。今回はその結果をお知らせします。

私からの質問は以下の3点。

①イ形容詞、ナ形容詞、どうやって皆さん勉強して、覚えましたか?
②日本語の動詞の活用の覚え方にコツはありましたか?(歌って覚えたとか?)
③日本語の勉強で難しいなと思ったポイントがあれば教えてください。

回答は下のようなものでした。

 

①イ形容詞、ナ形容詞、どうやって皆さん勉強して、覚えましたか?
論理的に勉強せず、感覚で何となく覚えました。

②日本語の動詞の活用の覚え方にコツはありましたか?(歌って覚えたとか?)
いくつかの典型的な動詞(行く、する、やる、食べる、飲むなど)の活用を暗記して、
新しく出会った動詞に対して暗記しておいたパータンを当てはめていました。

③日本語の勉強で難しいなと思ったポイントがあれば教えてください。
第一人称や第二人称はあまり使わないため、
英語など欧州言語とかなり異なる言い方を覚える必要があります。

ロシア出身 M氏

 

 

1.イ形容詞、ナ形容詞、どうやって皆さん勉強して、覚えましたか?
イ形容詞の名前の通り最後の文字は「い」ですので、それでなんとなくわかっています。例外(「きれい」とか)はどちらかといえば暗記かな?あとは普通に慣れていますね。

2.日本語の動詞の活用の覚え方にコツはありましたか?(歌って覚えたとか?)
普通に暗記しています。

3.日本語の勉強で難しいなと思ったポイントがあれば教えてください。
たまに主語が書いていないというところがややこしいと思います。あとは、漢字の制度は昔からありますので、暗記するのがかなり大変だと思います。

 

フランス出身 D氏

 

① イ形容詞、ナ形容詞、どうやって皆さん勉強して、覚えましたか?

特に特別な覚え方はないと思います。

② 日本語の動詞の活用の覚え方にコツはありましたか?(歌って覚えたとか?)

そうですね。まだ覚えている大学で習った歌等もありますね。例えば、「て」について等です。
ある歌の歌詞といえば、
い、ち、り becomes つ て
に、び、み becomes ん で
し→して 、 き→いて
来て、見て、行って、て、て、て(例外なので)

③ 日本語の勉強で難しいなと思ったポイントがあれば教えてください。

やはり漢字の読み方を覚えることですね。全く同じ漢字なのに違う読み方とか、読み方が言葉によって変わる言語を覚えることはとても難しいです。ルールとかがなくて、覚えるしかないから難しいですね。

オーストラリア出身 B氏

*彼はオーストラリアで小学校から日本語を勉強していたそうです。こんな「て形」を勉強するYOUTUBEも教えてくれました。

てけいのうた 2019( te-form song て形の歌 tekei no uta )

【初音ミク】て形 た形の歌 / 【Hatsune Miku】Nihongo Te-form Ta-form song

 

 

① イ形容詞、ナ形容詞、どうやって皆さん勉強して、覚えましたか?

おそらくルールを覚えてから練習をたくさんしました。
毎週、新しい形容詞リストをもらい、暗記してから授業中に例文を書いたり、声に出しながら覚えたりしていました。

② 日本語の動詞の活用の覚え方にコツはありましたか?(歌って覚えたとか?)

動詞を覚える方法については、先生は絵が描いている看板を持ち、学生皆たちが何動詞を表すか声に出しながら覚えていました。
動詞の活用は、歌って覚えましたね。
「歌」というよりは、
食べる~ 食べます~ 食べました~ 食べましょう~のような
暗唱?みたいな感じで練習していましたね。
ユーチューブで調べてみたら下記のかわいい歌が出ましたので共有いたします。

 Japanese Verb Conjugation Sing along/動詞の活用を歌で覚えよう! – YouTube

③ 日本語の勉強で難しいなと思ったポイントがあれば教えてください。

言語学的な話ですが、勉強し始めたばかりは大変だったのが日本語の語順ですね。
フランス語・英語と違って、日本語はSOV型なので、まるで頭の中で“考える順番を変える”操作が難しかったです。
他に、~たくなかった の活用(食べたくなかったとか、高くなかった、暖かくなかったとか)が特に難しいなと記憶があります。
噛んでしまいますので大変でした。
また、あげる・くれる・もらうのコンセプトも不思議で、把握するまでに時間がかかりました。
最後にCasualとPolite Fromの区別も難しくて、さらに敬語を組み合わせると(今でも)苦労していました。(今でも・・)

カナダ出身 M女史

 

It has been 16 years since I first started studying Japanese so I’m afraid I don’t quite remember what kind of study methods we used, but I have tried to answer your questions below:

1) How did you learn and memorize イ-adjectives and ナ-adjectives?

I think we first learned that i-adjectives always end with an ‘i’, and then we just had to memorize any na-adjectives that also end with ‘i’ as a set like “kirei na”, “kirai na”, “yuumei na”, etc.

(2) Do you have any tips on how to remember the conjugation of Japanese verbs? (Did you learn them by singing?)

I don’t remember doing any special exercises for learning conjugation. In the beginning I think we mostly followed the Genki 1 and 2 text books, reading and listening to sample sentences with conjugated verbs.

(3) Please tell me if there are any points that you found difficult in studying Japanese.

I’m not sure if it was the most difficult part, but what took me the longest was probably to build the confidence to speak Japanese. Studying kanji also took a long time.

(日本語)

日本語を勉強し始めてから16年経つので、どんな勉強法をしていたのかよく覚えていないのですが、以下の質問に答えてみました。

①イ形容詞、ナ形容詞、どうやって皆さん勉強して、覚えましたか?

i形容詞は常に「i」で終わるということを最初に学び、「きれいな」、「きらいな」、「ゆうめいな」など、「i」で終わる「な」形容詞をセットで覚えていたと思います。

②日本語の動詞の活用の覚え方にコツはありましたか?(歌って覚えたとか?)

2) 活用を学ぶために特別な練習をした記憶はありません。最初の頃は、「元気1」「元気2」の教科書に沿って、活用した動詞の例文を読んだり聞いたりすることが多かったように思います。

③日本語の勉強で難しいなと思ったポイントがあれば教えてください。

一番難しかったかどうかはわかりませんが、一番時間がかかったのは、日本語を話す自信をつけることだったかもしれません。漢字の勉強も時間がかかりました。

 

スウェーデン出身 S氏

 

今では日本語で見積書を作ったり、営業したりとなんでもこなす弊社のネイティブスタッフたちも、日本語を習いたてのころは苦労したこともあったんですね。
もし皆さんも彼らに聞いてみたいことがあれば連絡くださいね。お待ちしています。

鍋田

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