<めじろ奇譚>ガザと進撃の巨人

2024年6月11日

2024年6月9日のニュースで、イスラエル軍が人質4人を救出したという報道がされました。一方で、4人を救い出すための攻撃で少なくとも270人以上のパレスチナ人が死亡と地元当局が発表しており、イスラエルに向けた批判の声が大きくなっています。

昨年2023年10月7日、ハマスの攻撃があったとき、弊社からはパレスチナのヨルダン川西岸にアラビア語通訳(Nさん)を派遣していました。週末でしたが、現地から「ガザのハマスがイスラエルと国境付近で激しい衝突を起こし、イスラエル兵や入植者がたくさん殺されたり捕虜となったりしています。その報復としてイスラエルがパレスチナ(ガザ)に対して戦争状態であると声明を出し、毎日ガザを空爆しています。私たちのいる西岸地域は今のところ落ち着いていますが、いつどこで何が起こるかわからないので、隣のヨルダンに緊急退避することにしました。」と連絡が入りました。
幸いNさんも一緒のチームメンバーも安全に退避し、後日無事に日本に帰国しました。私たちの仕事は常に世界情勢に巻き込まれる可能性があることを実感した瞬間でした。

昨年の攻撃でハマスはイスラエルで1200人を殺害し、240人以上を連れ去りました(アルジャジーラの報道ではイスラエルの死者数は1139人)。その後、2023年11月24日から 30日までの7日間の戦闘休止の間に人質の100人以上が解放されたものの、ガザ地区では今も100人以上が拘束されています(BBCによると116人)。イスラエル政府は人質の解放に重点を置いて軍事作戦を継続しているといっていますが、この8カ月間でガザでは3万6,000人を超える死亡者がでたとガザ当局は報道しています。

外務省のパレスチナに関する基礎データによると、人口は約548万人(2023年、パレスチナ中央統計局(PCBS))(西岸地区 約325万人、ガザ地区 約222万人)です。また、ガザ地区の面積は365平方キロメートル(福岡市よりやや広い)となっています。「ガザ地区」の周囲には壁やフェンスが張り巡らされ、「天井のない監獄」と呼ばれていました。

イスラエルは自国を敵対視するハマス支配下の「ガザ地区」を封鎖するため、昨年のハマスの攻撃よりも前から、ガザへの物資や人の往来を厳しく制限していました。現在イスラエルはこの地域で空爆を繰り広げながら、同時に支援物資の往来までコントロールしています。ガザの人たちは逃げ場を閉ざされた中でイスラエルの攻撃から逃げ続けています。イスラエルとの境にある壁やフェンスはまるで檻のようです。

アラビア語の通訳Nさん(モロッコ出身)は、以前「進撃の巨人」をとても絶賛していました。「ウオールマリアはパレスチナの壁に似ている」とのことです。グロテスクな巨人の画風や、人間が食べられるシーンなどの残酷さから私はそれまで漫画を読んだことがありませんでしたが、彼の力説ぶりに、読んでみる気になりました。

漫画では、パラディ島の幼い子供たちが壁を越えて侵入してきた巨人たちに親を食べられ、そのような巨人を制圧するために調査兵団に入隊し、「この世界から巨人を一匹残らず駆逐する」と心に誓います。壁の外にいる巨人を撃退させる兵士になった彼らのうち、主人公、エレンは自らに巨人になれる力があることを知ります。その後、彼らは自分たちと同じエルディア人が海のむこうで、別の人種、マーレにひどく差別されていることを知ります。また、パラディ島を襲った巨人は、マーレにより巨人化させられた自分たちと同じエルディア人であることを知り、恐れていた敵が実は同じ人種であったことを知るのでした。

結局私も漫画を全部読み、アニメも全部見るほど夢中になってしまいました。しかしとても読みやすい作品ではありません。読み進めるうちに、だれが味方で誰が敵なのかわからなくなっていきます。主人公に近い登場人物も次から次へと死に、さらに土地や時代を大きく行き来して、途中からだれを応援すべきかわからなくなります。主人公でさえ正義なのか悪魔なのか判断できなくなり、不安な気持ちのまま最後まで読み進めました。

漫画の後半、パラディ島を守っていた3つの壁に閉じ込められていた巨人たちがパラディ島以外の人間を全滅させようと「地ならし」を発動させるシーンがあります。ネットには、今のガザの状況がとても進撃の巨人に似ている、今のイスラエルの攻撃は「地ならし」なのでは、という意見も見られます。しかし、もしパレスチナ人がパラディ島の住民なら、地ならしを発動するのはハマスのはずです。壁の内側は果たしてイスラエルなのか、パレスチナなのか・・。

もっとも、進撃の巨人の舞台はドイツで、エルディア人をユダヤ人、彼らを差別するマーレ人をナチスとみる見方もあります。本人たちの名前などにはこの説が適しているのかもしれません。

誰が正しいのか、正義はどちらにあるのか、ひどいのはどちらなのか。自分は被害者だと高らかに訴える者は実は一番の加害者・・・そんなことはどの時代にも起こりうることかもしれません。また、どのような読み方をしても「自分のことが書かれている」と思えるのはその作品が優れている証拠かとも思います。

是非読んでいない人はパレスチナの様子を思い浮かべながら「進撃の巨人」も読んでみてください。逃げ惑うガザの人たちに少しでも気持ちを近づけられるかもしれません。

(文 鍋田、絵 嶋田)

 

 

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