<めじろ奇譚> パリオリンピック開幕!

2024年8月4日

皆さん、毎日眠れていますか?
私は毎晩テレビをつけるとオリンピックのニュースがあり、そのまま柔道や体操などの試合を見て2時ごろにハッと気づいてテレビを消して寝る、という日が続いています。

正直パリオリンピックが始まる前まで私はどこか無関心でした。
フランス語をメイン言語のひとつとして取り扱う翻訳会社としては寂しいところですが、ここ日本ですることはあまりないようで普段の業務を淡々とこなす毎日。
フランス人のDさんは「政治がこんなに大変な時期にオリンピックなんてやっている場合ではない」とそもそも関心なさそうですし、パリ在住の通訳さんは「日本に帰省中です。パリは地下鉄料金も倍くらい高くなっちゃって残っていてもいいことない」とのこと。
パリのフランス人はちょうど夏休みのバカンスシーズンなので地方でテレビを見ているのかもしれません。

2024年7月26日はパリオリンピックの開会式でした。今回のオリンピックでは、開かれたオリンピック、既存の施設を出来るだけ使った「エコな五輪」、「サステナブルな大会」がうたわれています。
選手の入場もスタジアムを歩いて入場するスタイルではなくセーヌ川を船で進む斬新なスタイル。
船は、ノートルダム寺院、ルーブル美術館、エッフェル塔、グラン・パレ、凱旋門といった有名なランドマークを通過していきますが、知らないうちに自分も「ここ行った、ここには友達といった」・・・と思い出をなぞっていました。

レディー・ガガのショーもあり、ミニオンズがセーヌ川の下を進む潜水艦の中で暴れる様子も映像で流れました。
考えてみると、レディー・ガガはアメリカ人で、ミニオンズはアメリカのアニメーション制作会社(Illumination)のキャラクターです。
「え?フランス人じゃなくてもいいの?」と一瞬頭をよぎりましたがレディー・ガガはフランス語の歌でフランスのキャバレーを表現し、ミニオンズはモナリザを盗難したり、ベレー帽にフランスパンを持っていたりと、それぞれフレンチ色をアピールしています。

かつてマリーアントワネットが幽閉されたコンシェルジュリー牢獄では、各窓から自分の首を持った女性が登場。生首が歌い出し、フランスのメタルバンド、ゴジラが演奏する、という衝撃的な演出がありました。革命的でもありますが、自分の首をもって歌う女性と、その後の血しぶきのような演出は世界中で賛否を巻き起こしたようです。日本では、決して真似できない演出かと思います。

意味深な3人のダンサーが国立図書館で踊るシーンでは、様々な本がピックアップされていました。
ポール・ヴェルレーヌの「Romances sans paroles(無言の恋歌)」
アルフレッド・ルイ・シャルル・ド・ミュッセの「On ne badine pas avec l’amour(戯れに恋はすまじ)」
モーパッサンの「Bel-Ami(ベラミ)」
アニーエルノーの「Passion simple(シンプルな情熱)」
レイラ・スリマニの「Sexe et mensonges(セックスと嘘)」
ラディケの「Le Diable au corps(肉体の悪魔)」
ピエール・ショデルロ・ド・ラクロの「Les Liaisons dangereuses(危険な関係)」
モリエールの「Les Amants magnifiques(豪勢な恋人たち)」
マリボーの「Le Triomphe de l’amour(愛の勝利)」
フランソワ・トリュフォーの「Jules et Jim(ジュールとジム)」

・・・・実はこれ、共通しているのは「不倫」や「三角関係」です。
音楽もビゼーのカルメン「ハバネラ」と、ぬかりありません。
3人が扉を閉じてカメラを追い出すと、パリの空には大きなハートマークが浮かびました。橋の上では、やじろべえみたいな棒の上のダンサーが踊ります。
三角関係も含んで「愛」は素晴らしいと表現しているのかもしれません。
不倫そのものがタブーになっている日本ではやはりありえない演出ではないでしょうか。

歌手はみんな外国からきているのかといえば、そうではありません。金色の衣装を着た黒人女性シンガーの名前はアヤ・ナカムラ。「え?中村さん?日本人?」と思った人も多いかと思いますが、
彼女はマリ出身のフランス人。有名なフランスのシンガーだそうです。本名はAya Daniako(アヤ ダニアコ)。ナカムラは全くの芸名だとか。
開会式の最後はセリーヌ・ディオン(カナダ人)の「愛の賛歌」でした。歌はエディット・ピアフの有名なシャンソン。私も大学生のときに覚えて歌いました。

世界中の人を魅了する観光施設と、「それってやっていいの?」という演出のオンパレード。
でも、この“何でもあり”なのに、どこかまとまっていて、魅力的に映るフランス人のアピールの方法は昔から変わっていない気がします。
長いテレビの開会式の様子を見ていると、30年以上前、高校生や大学生だった私が夢中になったものがてんこ盛りで「うわあ!」とのけぞりそうになりました。
出来るだけ問題を減らし、万人に受けるように、細心の注意で完璧を求める日本人からしたら(東京オリンピックの時は、過去のいじめや発言がもとで演出家の辞退が相次いでいました)、かなり攻めた演出です。

やっぱり憎めないし、フランスは、やはりまた行きたいなと感じさせる国です。
「Vive la France!(フランス万歳!)」
そして、そんなパリで頑張る日本人の選手のことを今日も夜中まで応援しましょう!

(開会式から1週間以上たち、演出家のThomas Jolly(彼自身も性的マイノリティー)は高い評価を受ける一方、青く体を塗ったアーティストたちが集う食卓のシーンが「最後の晩餐」に似ていてキリスト教を冒涜しているという批判を受けたり、その性的嗜好からSNSなどで脅迫を受けているようです。攻める演出はフランスでも炎上するんだなと思う一方、マスコミや政治家がこぞって演出家を擁護しているのは清々しく、国で芸術家を守ろうとする姿勢はあっぱれだなと感じます。)
(文;鍋田、絵:嶋田)

 

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