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<めざせ語学マスター>チャンクとは?

2021年11月3日

再び先日の日本語教育能力検定試験の内容について。

試験Iの問題10には認知心理学の「維持リハーサル」やワーキングメモリが出てきました。
ちょうど試験前の「記憶とは?」で書いたばかりなので「きたきた!」と思いましたがその次の「かつて言語教育ではチャンクが否定的に捉えられてきたこともあったが、近年はその役割が見直され、チャンクの使用の効果が確認されている。」という表現に「え!チャンク?」と驚きました。

最近仕事でも「チャンク」という言葉をよく使っています。チャンクは、AI用の同時通訳コーパス作成時にも「訳すときの意味の塊」として使われています。その「チャンク」という言葉を日本語教育能力試験でも見るなんて驚きでした。

ではチャンクとはどういうものなんでしょうか。

チャンクに関する古い論文は、1956年のアメリカの認知心理学者、ジョージ・ミラー(1920-2012)の論文「マジカルナンバー 7±2」(1956)です。彼は、人間の短期記憶、ワーキング・メモリーには、処理容量の限界があり、一時的な記憶で処理できるのは7要素くらい(7±2)だとしました。

しかし、この7個というのは、7数字や7文字、といった単純な単位ではなく、7つの意味の塊(チャンク)に対しても機能します。

例えば、FBICIAUSAという言葉。
皆さんは一度見てすぐに思い出して書くことができますか?

私は電話番号もすべて語呂合わせで覚えるほど、綴りや数字を覚えるのが苦手なので、こういう問題にはとても抵抗を感じてしまいます。でも、実はこれを3つに分けると意外と簡単に記憶出来ることがわかりました。
FBI / CIA / USA
そうです、それぞれアメリカの連邦捜査局(FBI)、中央情報局(CIA)、アメリカ合衆国(USA) です。
このように、意味の塊(チャンク)に分けてワーキングメモリーを効率よく使うことができれば、人間は長い単語、つづりや数字といった情報を、少ない負荷で記憶することができます。

以前の「記憶とは?」のブログにある、ワーキングメモリー(記憶の短期貯蔵庫)の保持時間は15~30秒です。短期貯蔵庫はすぐに処理しないと忘れてしまう記憶の一時貯蔵庫です。しかし、もし長期保存庫に多くの知識(語彙、文法、イディオム、表現、文)が予め入っていればワーキングメモリーで処理できるチャンクの量や長さも増えてくるはずです。

同時通訳が通訳する際、発話を、ある程度の塊に訳しながら通訳していきます。その時の発話の塊がチャンクです。同時通訳は逐次通訳と違って、文章を最後まで聞いてから再現するのではなく、聞きながら訳すという特殊な方法で訳していくので、分け方も1文ずつなどではなく、文節や名詞句、動詞句など、かなり短いスパンで訳していくことになります。また、チャンクによる記憶方法をAIを使ってデータ処理した同時通訳に活用する研究もおこなわれています。

以前から、同時通訳の訓練の一つには「スラッシュリーディング」や「チャンクリーディング」がありました。スラッシュリーディングとは、英語を英語の語順のままで読んでいくための読解方法です。通訳のためだけではなく、英語の速読の方法としても用いられることがあります。チャンクリーディングの場合はスラッシュだけでなく、改行までしてよりはっきりと意味の塊を表示させることもあるようです。

通常、日本語から英語に訳そうとすると、語順の違いから(日本語はSOV、英語はSVO)、日本語の最後に出てくる述語を英語の主語の次に持ってくるなど、語順がひっくり返りますが、通訳、特に同時通訳の場合は、最後まで待っている余裕がありません。そこで、情報を出て来た順に理解して、ある単位の塊ごとに訳していく必要があります。同時通訳の学校ではこの方法を基礎訓練として勉強することがあります。通訳の場合は音声の処理なので、実際にはスラッシュ・リーディングからはじめて、少しずつ音声へ移行して、スラッシュ・リスニングの訓練をします。(私自身は逐次通訳の経験しかないので、同時通訳の訓練は憧れるばかりなのですが・・・)。

通訳にならなくても、記憶の訓練や速読のために、スラッシュ・リーディングはおすすめです。スラッシュの入れ方に厳格な規則はありませんが、SVC, SVO, SVOO, SVOCなどの文型の区切り、現在分詞や過去分詞の前、不定詞句の前、長い名詞句の後、接続詞や関係代名詞・関係副詞、疑問詞の前、カンマ、セミコロン(;)、コロン(:)、ダッシュ(―)の後、前置詞の前などが多いようです。意味の塊で区切る、というだけで厳しい縛りはありませんが、これ以上区切ったら意味の塊が壊れるという区切り方(The /White / House /summary…)は通常しません。

さて、試験問題の選択肢(「チャンクの使用の効果」)は、そんなチャンクの知識があっても選ぶのは難しかったです。他の選択肢も紛らわしく感じましたが、とりあえず「注意を払わなくても言語処理が進み、発話の流暢さが増す。」を選びました。でも、正直あまり自信はなかったです。「チャンクを使ったら流暢に話せる・・・?」そうかな?と悩んでしまいました。

チャンクが生かせるのは、長期記憶庫に予めたくさんの知識がある場合だと思います。また、どんなに2か国語がペラペラでも、発話の内容を理解できなければ流暢には話せませんし、あまりチャンクにこだわると「どこでチャンクを区切ったらいいの?」という別の問題を抱えることになりそうです。(鍋)

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