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<めざせ語学マスター>「宇宙へ」は行くけれど「トイレへ」は行かない?―「へ」と「に」の違い

2021年8月24日

先週の「は」と「が」の違いを書いていると、ずっと前、確かフランス留学中(もう20年以上前・・・)に、日本語を勉強しているという友人から言われた言葉を思い出しました。

「私、日本語の「へ」と「に」の違いが分かったわ。遠くに行くときには「へ」で、近くに行くときには「に」なんでしょう。だから「宇宙へ行く」で、「トイレに行く」。「トイレへ行く」は言わないのよね。」

ひどく納得した感じの彼女に「え・・トイレへ行く、も言える気がするけれど・・・」と思ったものの、「へ」と「に」の違いについてはっきりした説明ができませんでした。「トイレへ行く」も言う気がしますし「宇宙に行く」も言う気がします。一体「へ」と「に」に違いがあるのか、20年以上たった今、解明してみたいと思います。

「新版 日本語教育事典」を開くと・・・すぐに結論がありました!

■目的地を表す「に」と「へ」
方向性をもった主体の移動を表す動詞では、「に」と「へ」どちらも用いることができる。

主体の移動を表す動詞とは、「行く」「写る」「帰る」「寄る」「向かう」などです。

だから
「宇宙に行く」、「宇宙へ行く」も

「トイレへ行く」、「トイレに行く」も

問題ないのです!

また、NHK放送文化研究所の方向を表す「に」と「へ」では下のように書かれています。

  (台風が)「北に向かっている」と「北へ向かっている」の「に」と「へ」は格助詞で、いずれも、「向かう」という移動を表す動詞の到達点や方向性を示しています。一般的に、「に」が到達点そのものに焦点が当てられているのに対して、「へ」はそれよりも広い範囲、つまり到達点とともにそれに向かう経路や方向性に焦点が当てられています(『みんなの日本語事典』参考)。台風の進路を伝える場合は、台風が向かう到着点が決まっているわけではなく、重要なのは「向かう方向」なので、どちらかというと「北へ向かっている」のほうがいいかもしれません。

その観点で考えると、「宇宙」のほうが範囲が広いので「へ」のほうが適している気がします。到達点そのものに焦点が当てられている、という点ではトイレは「に」のほうが適しています。でも「どこ行くの?」「ちょっとトイレへ」とも言えるし(方向性に焦点が当てられているのかもしれませんが)、入れ替えは可能です。

しかし、「へ」と「に」をどこでも入れ替え可能かといえばそうではありません。

「に」は使えるが「へ」は使えないのは、主体や対象の具体的な移動を伴わない場合です。
目的が相手を表す文では「へ」は使えません。つまり
「彼に会う」はいいますが「彼へ会う」はいいません。

また、「黒板に紙を貼った。」(「黒板へ紙を貼った。」はあまり言わない)、「かばんに本を入れてある。」(「かばんへ本を入れてある。」はあまり言わない)のように動作後に対象物がその場所に行きついた状態であることを表す場合にも「へ」は適しません。

逆に「に」は適さないけれど「へ」ならいける、という場合もあります。

「ゴールへのシュート」は言えますが「ゴールにのシュート」は言えません。

「へ」のあとに引用の「と」が続く「学校へと急ぐ保護者」はいえますが「学校にと急ぐ保護者」とは言いません。

「衆議院解散へ」「ごみはくずかごへ」「マネージャーと結婚へ」「コンビ解散へ」などの新聞やニュースの見出しなど、助詞「へ」で終止する言い方の場合は「に」ではなく「へ」を使います。

では次はどうでしょう。

「工場へ走る」「工場に走る」はちょっと不自然な気がしませんか?
これら「歩く」「走る」「泳ぐ」「這う」など、移動そのものというよりは、移動の様態や方法を表す動詞は「へ」や「に」があまり適していません。方向を表すなら「まで」のほうがしっくりします。
「工場に(へ)走った」という場合は「走る」という身体的動作より工場という場所へ「向かう」の意味が強くなります。

では次の用法はいかがですか?

確かに「妻に怒られた」は言えても「妻へ怒られた」とは言えなそうです。
でも・・・あれ?この用法は上記のような「へ」か「に」かの問題でしょうか。カテゴリーがちょっと違うような・・・。

実は、これは上で述べてきた「目的地」を表す「に」と「へ」の問題ではなく、「に」の「使役・受身の動作主」という用法により生じている問題です。この場合はもちろん「へ」に置き換えられません。

では、「に」には他にどのような用法があるんでしょうか。

日本語教育能力試験の解説に詳しい「毎日のんびり日本語教師」のサイトでは以下の用法が記載されています。

1. 移動の到着点(「実家に帰る。」)
2. 変化の結果(「雪が雨に変わった。」)
3. 授受の与え手・受け手(「友達にプレゼントをあげた。」)
4. 動作の目標・到達点(「これから上司に会う。」)
5. 使役・受身の動作主(「私は先生に褒められました。」)
6. 存在する場所(「空に飛行機雲があります。」)
7. 動作の目的(「流れ星を見に行く。」)
8. 原因・理由(「根拠・お金に困っている。」)
9. 時間(「明日朝8時に出発する。」)
10. 基準(「私の家は駅に近い。」)
11. 割合(「1年に1回献血する。」)
12. 状態の主体(「私には夢がある。」)
13. 内容物・付着物(「希望に満ち溢れた顔。」)
14.領域・範囲(~にとって)(「私には難しい。」)

途方もなく多いです。(英語の前置詞も辞書に多くの用法が記されていましたがそれを思いだします。)

こうなると「に」と「へ」の違いだけでなく、別の疑問もわいてきます。

◇ 場所を表す「に」と「で」の違いは?(「空き地にごみを捨てる。」VS.「空き地でごみを捨てる。」)
◇ 時を表す「に」の使用・不使用の違いは?(「3日後にくる。」VS.「3日後くる。」)
◇ 時を表す「に」と「で」の違いは?(「3時に閉まります。」VS. 「3時で閉まります。」)
◇ 起因を表す「に」と「で」の違いは?(「大地震に家が倒壊した。」VS.「大地震で家が倒壊した。」)
・・・

エンドレスです。

結論:「宇宙へ」と「トイレに」の場合、「へ」と「に」は入れ換え可能。しかしこの問題は「に」という助詞のもつ問題の一つでしかない。・・・助詞の問題はしんどいですね。(鍋田)


<めざせ語学マスター>日本語教育に関するブログはこちら

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