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<めざせ語学マスター> RとLが聞き分けられない!?

2021年7月13日

私がフランスに留学したてのころ、フランス語の「靴」という単語「chaussures」の発音ができず、カタカナのまま「ショシュール」と言っていたらホストファミリーの子どもたちにゲラゲラ笑われ「もう一回言ってみて!」と、再度大笑いされたのを覚えています。でも自分では何が違うのか分からない。私の耳にはかなり同じように聞こえるのに・・・。chの発音とssの発音が同じになっているから??「クチュ」って聞こえてるのかな・・・。

語学学校でも一人校庭で「発音の違いがわからない・・・」としょげていたいたことがありました。見かねた知人がそばにきて「siはスィ、chiはシって言ったらいいんだよ。」とアドバイスをくれました。今ならインターネットですぐに見つかるアドバイスかもしれませんが、当時は「そんな簡単なことだったの?」とすごく感動したのを覚えています。

私が行っていたエクサンプロバンスの語学学校には日本人も多くいて、日本人だけの発音の授業もありました。ある日の授業で、日本人の耳には「R」と「L」の違いを聞き分けるのが難しいという話がありました。

「欧米人には「R」と「L」が耳の中の別々の穴に入るのに対して、日本人は「R」も「L」も耳の中の同じ穴に入ってしまいます。」

「み・・・耳に穴が開いてるんですか??」
と素直に驚く私に「例えば、という感じです。本当の穴はありません。」

「ネイティブたちは小さいときからの慣れなどにより簡単に聞き分けらますが、訓練でもある程度は聞き分けられます。耳がいい人、特に音楽をやっている人は発音もうまくなる人が多いです。過去の生徒の中でも、特に発音がきれいになった学生は音大からの留学生などがいました。」

そして20年以上たった今、日本語教育の勉強を始めて、この「穴」の正体に少し近づいた気がしています。

音声上の最小単位は単音(英語:phone*)と呼ばれ、一般的には国際音声記号(IPA: International Phonetic Alphabet)で表します。リンゴの英語、appleなら、 [ǽpl]と表す発音記号のことです。(* phoneの語源はギリシャ語の「音声」。電話のtelephoneのphoneも語源は同じです。)

これに対して意味の違いに関わる最小の音声的な単位は音素(英語:phoneme)と呼び、/n/, /g/, /d/ のように/ /で表します。

例えば英語のcollection とcorrectionは、[kəlékʃən] と[kərékʃən] 。「収集」と「修正」となり、それぞれ意味が違います。この [l]と[r]という音を、英語で意味の違いをなしている音として/l/と/r/で表したのが音素です。英語には/l/と/r/の違いで意味が違う言葉はたくさんありますが、以下に一例をあげます。

fly fry
light right
long wrong
collect correct
glass grass
lighter writer
locker rocker
(参照:https://www.englishclub.com/pronunciation/minimal-pairs.htm

1か所の音の違いで意味が違う言葉のペアを「ミニマルペア」と呼び、外国語の学習時にもよく使われます。日本語だったら「缶」と「癌」、「サル」と「ザル」などが挙げられます。1つの音により意味がガラリと変わる音、それが音素です。上の日本語の例でいうと/k/と/g/、/s/と/z/により意味が違っているのでそれぞれが音素になります。

ところが、英語では全く意味が違う[l]と[r]を含む二つの言葉も、カタカナで書いてみるとどうでしょう。「フライ」「ライト」「ロング」「コレクト」「グラス」「ライター」「ロッカー」・・。そうです。日本語で書くと同じカタカナになってしまいます。日本人の/r/では、[l]と[r]という音(発音)の違いを表現できないので、カタカナにすると同じ「ラリルレロ」になってしまうのです。

日本語の/r/と英語の/r/は同じ記号で表しても、範囲が異なります。これがその昔きいた「[l]と[r]も同じ穴に入る」の正体なのかもしれません。

ちなみに日本語のラの発音は[la]でも[ra]でもなく、歯茎はじき音 [ɾa](rのてっぺんがない記号)です。でも、外国人が話す巻き舌のラでも、lamen でもramen でも中華料理店にいけば「ラーメン」だとわかります。


日本人は、ラーメンの「ラ」をいろんな発音で言われても「なんかちょっと違うかな~、でもま、いいか。」くらいに聞き流すことがほとんどです。でも「ダーメン」とか「ナーメン」と言われると、「違うでしょ!」と突っ込んでしまいがち。日本人にとって/ラ/は/ダ/や/ナ/とは明らかに違うからです。

例えば朝鮮語では[g]と[k]が意味の区別に役立たず、/g/には[g]と[k]が両方とも含まれるそうです。また同様に他の言語では、[d]と [t]、 [b]と [p]の区別がないものもあるので、一週間が「いっしゅーがん」、池袋が「イケプクロ」、妹が「いもーど」となることがあるとのこと。外国語の発音学習で苦労するのは同じですが、苦労するポイントはそれぞれの母語により少しずつ違います。

さて、最初にもどってsiとchiの違い。これは日本人のサ行の発音に原因がありました。日本語のサ行の発音は下記のように表されています。

「シ」だけ違う発音です。このシの発音は、本来「シャ行(シャ[ɕa]、シ[ɕi]、シュ[ɕɯ]、シェ[ɕe]、ショ[ɕo])」の発音ですが、現在の発音ではサ行に借り出されています。ちなみに[s]の発音は歯茎を摩擦して出す音(「スー」という時に使う音)、[ɕ]の発音は歯茎より少し口の奥の上部に息を摩擦させて出す(「シー」という時に使う音)です。

「siをスィと発音してみよう」のように意識するだけで「si」の発音は結構簡単に調整できます。最初の「靴」を表すフランス語「chaussures」も「ショスュール」と意識して発音すればそこまで笑いをとることにはならなかったでしょう。

最近は[fi] の発音も「フィ」、[vi]も「ヴィ」など、カタカナ表記を工夫して近い音を表現できるようになってきました。そして最近の子供向けの英語テキストにあるカタカナもずいぶん以前のカタカナとは違っています。将来、[l]と[r]もカタカナ表記で分けられる日がくるかもしれませんね。(鍋田)

 

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