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<めざせ語学マスター>チョムスキー・ナウ(Chomsky, Now)!

2021年8月31日

 

突然ですが、上のかっこいいサイトと、真ん中の紳士は誰だかわかりますか?また、次の動画はどうでしょう。


https://news.yahoo.co.jp/feature/566/

私が毎年試験でその名前と「生成文法理論(generative grammar theory)」を結び付けて暗記していたチョムスキー(Avram Noam Chomsky, 1928年生まれ)氏です!なんと90歳を過ぎた今でも現役のマサチューセッツ工科大学の言語学および言語哲学の研究所教授 兼名誉教授言語学者 、哲学者であり、政治活動家です!!(上のサイトはこちら:https://chomsky.info/)

テキストに出ていた人物がただの伝説の言語学者ではなく、現在もトランプ政権や共和党、コロナ感染症など、今の話題についてコメントしていたり、YOUTUBEに出ていたりするってすごい!言語学など勉強したことなかった私でもその名前を聞いたことがあったほどの超有名人物が今も活動しているという事実は、(失礼とは思いますが)私にとっては生きた夏目漱石に会えるくらいの衝撃でした!

ついついサイトを発見した興奮で、彼の出ているYOUTUBEや、対談を読みたくなってしまいますが、それをするときりがないので、今回はそんな彼を伝説の言語学者にした「普遍文法理論(The universal Hypothesis)」について、できるだけ簡単に学んでみたいと思います。

まずは、彼の紹介。

エイヴラム・ノーム・チョムスキー(Avram Noam Chomsky、1928年12月7日 – )

ノーム・チョムスキーは1928年、ウクライナ出身の父とベラルーシ出身の母の間に1928年アメリカのフィラデルフィアで生まれました。現在もマサチューセッツ工科大学の教授です。1950年代の彼の著書 『言語理論の論理構造』(The Logical Structure of Linguistic Theory 1955/1975)や 『文法の構造』(Syntactic Structures 1957)は、当時の言語学に革命をもたらしたと言われています。

それにしても「革命」ってすごいですよね。しかし、なぜ「革命」だったのでしょうか。

それを知るために、まず当時のアメリカ言語界の流行を調べてみましょう。

彼の理論が発表された1950年代、主流は、言語はインプットの刺激とその反応の習慣形成によって習得されるとする行動主義心理学が盛んでした。

ワトソン(John Broadus Watson (1878 –1958)

20世紀初頭に行動主義(behaviorism)を提唱したワトソンは人間の心を科学的に研究するために、「心(mind)」自体を研究するのではなく、目に見える「行動(behavior)」を対象としました。「行動」を研究することで心の中身を類推しようとしたのです。(ソ連の生理学者、イワン・ペトローヴィチ・パブロフ(1849-1936)による「パブロフの犬」に、行動主義心理学は大きな影響を受けていました。)

行動主義では、人間の心は「ブラックボックス」として扱われました。刺激(stimulus)、反応(response)、強化(reinforcement)などの関係を研究することでブラックボックスを明らかにしようとしたのです。子どもたちが言語を習得していく過程も母親からの言葉などの刺激を受けて言語を習得しているとされ、子どもたちの発する言語も反応の表れだと捉えられていました。

バラス・フレデリック・スキナー(Burrhus Frederic Skinner, 1904年- 1990年)

アメリカ合衆国の心理学者で行動分析学であるスキナーは、報酬を与えることによって行動が継続すると考え、習慣形成には簡単な行動から複雑な行動へ強化を与えていくことが重要と考えました。彼が提唱した行動主義はワトソンが「行動」の対象から外した「意識・認知・内観 」ですら科学的に研究できるとしており、ワトソンの行動主義が方法論的行動主義(methodological behaviorism)と呼ばれるのに対して、徹底的行動主義(radical behaviorism)と呼ばれました。

スキナーは、彼が発明したラットがレバーを押したら自動的にえさが出て、刺激と反応(バーやボタンを押した数)を自動的に記録できる「スキナー箱」が有名です。(スキナーのオペラント条件づけ:https://genekibar.com/skinner-partial-reinforcement/)。ギャンブル依存症やゲーム中毒もこれで説明できるようです 。)

彼の「習慣形成」の考え方は「オーディオリンガル・アプローチ」の基盤となりました。このアプローチは、音声言語の習得を優先、文系の学習第一でやさしいものから難しいものへ、意味より音韻、文構造が大事、発音練習では模倣練習を行う、母語話者と同様の流暢さを目標にしています。

そういえば昭和の英語の教科書には「This is a pen. This is a book. This is a pencil.」など繰り返しが多かったですが、2021年現在、中学生の息子の教科書にはそんな表現はほぼでてきません。古い英語の教科書と新しい英語の教科書を比べると意外と(昭和世代の)私たちは行動主義の影響を受けて英語を勉強していたことが分かります。(参考:50年以上前(昭和)の中学英語の教科書から令和時代のものまでを徹底比較!

長くなりましたが、以上が1950年代にアメリカで主流だった「行動主義」の説明でした。

この主流派に対して、チョムスキーは異論を唱えます。

チョムスキーは人間の自主的思考能力、言語能力の生得的側面を強調しました。子供は周囲の人の言葉を聞いて覚えますが、いろいろ言い間違いもします。もし言葉を覚えることが、聞いた言葉を真似することだとしたら、そんな言い間違いは起こらないはずです。大人がいちいち間違いを指摘しなくても、子供はいつの間にか正しい言い方を覚えていきます。そこで「刺激の貧困性(Poverty of the stimulus)」という問題に彼は気づきました。

そこで彼は考えます。

確かに・・・。

うちの子供たちはもう大きくなってしまいましたが、保育園にいたころにはかわいい言い間違いをしていました。
「蚊にかまれた」を「カニにかまれた」と言ったり、
「知ってる」というところを「知れるー」と言ったり。
かわいいからといって、こちらも真似して「カニにかまれたー」とか「ママもそれ知れるー」とふざけていましたが、いつの間にか大きくなり、そんなかわいい間違いも幻のように消えてしまいました。また、「いい子でちゅねー。」のようなママ語調で話した言葉はそのまま子供が「そうでちゅねー。」とはなかなか言わないものです。

「かわいかったのにちょっと残念。でもま、それが成長か。」と考えて終わらないのがチョムスキーを始め言語学者たちのすごいところ。

大人が直さないのに、子供は正しい言い方を覚えていく。間違った文を正しくないというインプットや刺激が貧困なのに自然に修正されていく。この事実から、チョムスキーは言語をヒトの生物学的な仮説上の(心理上の)器官によるものと捉えました。人間は生まれながらにして言語獲得装置(LAD;Language Acquisition Device)を備えており、その生得的な能力によって言語を獲得していくと仮定したのです。(ミツバチのミツバチダンスやコウモリの超音波みたいに、人間には言語能力がある)。全ての人間には普遍的で生得的な能力があるとし、それを普遍文法(Universal Grammar)と呼びました。

① 「何もない状態」
普遍原理とパラメータから構成される普遍文法は生まれながらにあります。言語習得を開始する前の子供は言語獲得装置(LAD)の初期状態です。

②「核心文法」が生まれる状態
母親などから個別の言語の入力に触れると、それに合ったパラメータの値が決められます。すべてのパラメータの値が決まると、赤ちゃんの言語で核心文法(Core Grammar)が出来上がります。

③「個別文法」が生まれる状態
個別言語の知識は核心文法だけで構成されているわけではないので、発達段階が進むと周辺文法(peripheral grammar)が含まれてきます。周辺文法は普遍文法の管轄外にあり、普遍文法からは予測できない規則だと考えられています。

しかし、それまで研究の対象から外され、ブラックボックスとして扱っていた「心」を、チョムスキーが「逆に言語学の基礎はここにある」と主張したのは、それまでの言語学者たちにとってはそうとうなショックな出来事(革命)だったようです。しかもヴェトナム戦争を契機にチョムスキーは政治評論活動まで行い始め、言語学専門以外の人にも有名になっていく・・・。きっと当時の言語学者にとっては嫌な存在だったんだろうと想像します。(私が当時の言語学者だったらチョムスキーに「空気読んだほうがいいんじゃない?」とアドバイスしていたかもしれませんね。)

20代の若さでこの論に辿り着いたチョムスキーは、“チョムスキー以前/以降”と時代を区切れるほどに、言語学を根本的に変えてしまいました。また、生成文法理論は認知科学や脳科学、コンピューターサイエンスなど、その他の分野にも大きく影響していきます。

そんな普遍文法理論ですが、問題もありました。実体をとらえにくい、言語能力(linguistic competence) に集中しすぎて、実際の言語運用
(linguistic performance)は研究の対象にされないので、言語教育との関連性があまりみられない、などと批判されました。

またチョムスキーは(このブログで過去に取り上げた)ソシュールフンボルトにも影響を受けています。どのように影響を受けたのか研究すると面白そうですね。

参考 第二言語習得論 アルク
新版 日本語教育事典
「チョムスキー」 田中克彦


<めざせ語学マスター>日本語教育に関するブログはこちら

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