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<めざせ語学マスター>シニフィエとシニフィアン

2021年7月6日

以前勤めていた翻訳会社でのある日の午後。
「もちろん、シニフィエとシニフィアンの違いは判るね?」
突然社長に質問されたことがありました。
「signifier の過去分詞と現在分詞ですね!」
と答えると
「(まさか知らないの?)!!」
と、ぎょっとされたのを思い出します。

言語学をかじった人にはアタリマエの用語のようですが、ただ語学だけを勉強してきた人には「?」です。


ソシュール

スイスの言語学者、フェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure 1857-1916)は、ジュネーブ大学で言語の本質と言語学について教えていたそうです。それを教え子たちが「一般言語学講義」としてまとめて出版しました。本人は講義を行ったあとに病気で亡くなってしまったそうです。

彼は言語を「通時態(仏語: diachronie, 英語:diachrony)」と「共時態(仏語:synchronie、英語:synchrony)」にわけました。通時態は言語の歴史的な変化であり、共時態は特定の時代における言語の状態です。彼は言語の変遷などは大事だとしながらも、どうやって言語が他人に伝わるかというシステムを解明しようとしました。歴史的なことはひとまず横においておき、現在使われている言語の仕組みを集中して研究しました。

今使われている言語=共時態(フランス語:synchronie, 英語:synchrony)

 

通時態( フランス語:diachronie, 英語:diachrony)

では今私たちが話している言語は全て研究の対象かというと、そうではありません。彼はまず人間のもつ普遍的な言語能力・シンボル化活動をランガージュ(フランス語:langage、英語:language〉とよび,これを社会的側面であるラング(フランス語:langue、英語:language〉(=社会制度としての言語)と個人的側面であるパロール(フランス語:parole、英語: speech〉(=現実に行われる発話行為)とに分け、パロールは言語学の対象から外しました。(注意!フランス語のlangue もlangage も英語になると両方ともlanguageになってしまいます。英語ではラングをparticular language、ランゲージをパロルを使える能力、つまりspeech abilityのように、説明をつけて分けているようです。)


パロールのイメージ (個人の出す音の集まり)

ラングのイメージ (記号的)

なぜ人は人に「ニンジン」を買ってきて、と言えば、相手は「ニンジン」を買ってこれるのか。それは、その単語を使って相手が同じものを想像できるという約束なしにはできないことです。同じ言語を使う人は、同じ音と意味を結びつけるシステムを頭に持っているのです。

どうやったら「ニンジン」という言葉で同じイメージを持てるのか。
彼は言語を「記号(フランス語:signe、英語:sign」ととらえました。「意味」は「ニンジン」のような言語という音や図形で表すことができます。

意味=シニフィエ(フランス語:signifié、英語:signified)

記号=シニフィアン(フランス語:signifiant、英語:signifier)「ニンジン」という音、文字

この意味と記号がそれぞれの頭で結びつかない限り、相手にメッセージは通じません。

まるでモールス符号・・

また、シニフィエとシニフィアンの間に自然な関係はありません。これを「恣意性」(フランス語:arbitraire du signe, 英語: arbitrariness of the sign)といいます。

別に「ABC」でもよかったのかもしれません。
実際、同じ対象(signifié) に対して、言語によって呼び方はかなり違います。

猫(neko)は 英語でcat(キャット), 中国語では猫(マオ),  モンゴル語ではМуур(ムール)、韓国語では고양이(コヤギ)。

犬(inu)は 英語でdog(ドッグ),  フランス語でchien(シヤン),  スペイン語でperro(ペロ)、中国語では狗(ゴウ)。

馬(uma)は 英語でhorse(ホース),  中国語は马(マー)、ロシア語ではЛошадь(ロシャチ)、韓国語では말(マル)。

このような「シーニュ」「シニフィアン」の概念は、言語に関する理論にとどまらず、セミオロジー、記号論(フランス語:sémiotique 、英語: semiology)という新しい学問分野として発展していきました。それが形態素分析などにつながり、今のAI翻訳にも生かされていると思うと感慨深いです。

さて、最初に戻りますが、翻訳するときには、シニフィエ、つまり、そのものを理解して行う必要がある、というのが上司の言葉の続きでした。シニフィアンは言語によって恣意的につけられているが、言葉の表面や、言語の入れ替えだけでとらえずに、本質(シニフィエ)を理解しないと(たとえばそれがボイラーやコンプレサーであっても)良い翻訳はできない、ということでした。

今更ですが、深い言葉ですね。(鍋田)


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