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<めざせ語学マスター>メタファーとは

2021年12月5日

まだ私が翻訳会社に入りたてのころだったと思いますが、「メタファー」が話題になったことがありました。メタファーとは何か。シニフィエ・シニフィアンについて教えてくれた上司はメタファーについても教えてくれましたが、その教え方は独特でした。

私:「どういうのがメタファーになるんですか?」
上司:「つまり、実際にあなたが履いているストッキングは全然色っぽくないかもしれないけれど、椅子の上に誰のものかわからないストッキングが脱ぎ捨ててあると、そこから想像力が働いて、実際に履いている人よりもずっと魅力的になる、そういうものの例えですね。」

もう20年くらい前だから時効だと思いますが、今言ったらセクハラと言われそうな発言ですね。確か当時はやっていたイメクラなどの話題が出た延長線だったかと思いますが、なぜイメージがお金になるのか、というところからメタファーに繋がりました。メタファーがお金になるなら、なんとも不思議な話です。

「メタファー」という言葉は英語からの借用語として比喩全般を指すときに使われますが本来は比喩の一種である「隠喩」を指します。下の比喩の説明でも記載しますが、本来は「芸術は爆発だ」のように、「まるで」とか「~のように」を使わないで「A=B」などと例える修辞技法の一種です。

しかしメタファーや比喩の表現は簡単そうで、翻訳するときは意外と厄介ものです。

例えば「彼女たちは蟻のように仕事した」というフランス語のニュース記事を読んでつい「女工哀史」のようなブラック企業を想像してしまったら、すぐ横の写真には工場で笑いながら楽しく働いている女性たちの姿。「え?ブラック企業のニュースじゃないの?」と思ったら、フランス語の表現”travail de fourmi”には勤勉で丁寧な仕事をする人のこととありました。でも日本語で「あなたの働き方、蟻みたいね。」と言われたら褒められているのか褒められていないのかちょっとわからない気がします。

一方で、「狸」は日本語では「狸寝入り」や「取らぬ狸の皮算用」「狸おやじ」などいろいろ表現がありますが、英語ではRaccoon dog, アライグマに似たアジアの動物、というイメージしかないようです。「取らぬ狸の皮算用」は英語では英語では”Don’t count your chickens (before they are hatched)!” や“Don’t sell the bear skin before catching the bear.”とチキンやクマに化けてしまいます。

フランス語には、“Avoir une mémoire d’éléphant.”(象のように良い記憶力)という表現もありますが、もし私が日本語で「あなたの記憶力って象みたい」と言われたら一瞬、馬鹿にされたのかな、と勘違いしそうです。また同じ象でも、英語で“white elephant”と言えば無用の長物のこと。英語では « There is an elephant in the room. »という表現もありますが、ここでの「象」はみんなが分かっているけれど口にしない問題や話題のこと。しかし日本語で「みんな問題があるってわかっているけれど口にしない。まるで部屋にいる象だね。」と言われても「は?」と思いそうです。

色のイメージでいうと、銀の表現が英語でよく使われますが、“be born with a silver spoon in his/her mouth”(銀のスプーンを加えて生まれてくる)というのが「裕福な家に生まれる」ことになるとは、日本生まれの私にはなかなか想像できません。“Every cloud has a silver lining.”という表現(直訳すると「すべての雲には銀の裏地がある」)は、転じて「どんなに悪いことにも希望の光がある」ということにつながりますが、この表現を知らなければ落ち込んでいるときに「ほら、全ての雲には銀の裏地があるさ」と言われても慰められているのか何かのなぞかけなのかわからなくなりそうです。


Silver lining (雲を縁取る銀のライン)

このように、比喩というのは、表現を豊かにする一方で、その言語が使われている地域の文化や考え方もわからないとなかなか理解できないものでもあります。「Aみたいに」と言ったところで、「A」のイメージが同じでないと、通じないか、誤解を招くこともあるわけです。

日本語の比喩も一筋縄ではいきません。以下では比喩の種類について説明していきますが、実は私たちは「~みたいな」や「~のように」などの表現以外にも、無意識にたくさんの比喩を日常的に使っていることが分かります。

そもそも比喩とは

あるものごとをわかりやすく説明するために、それに似た他のものに例えて言い表すこと。
原義から転義が派生する過程で、比喩が重要な働きをしていることが多くあります。比喩には直喩(シミリ)、隠喩(メタファー)、換喩(メトニミー)、提喩(シネクドキ)があります。

1, 直喩(ちょくゆ)
(英語:simile)スマイルではなく、シミリです。(語源はラテン語のsimilis)
「りんごのような頬」「お皿のような目」「まるで猫のような声」「さながら一枚の絵画のよう」など、ある事物を他の事物と直接に比較して,その特徴を表示する修辞法です。「~のようだ」「~みたい」「まるで」「さながら」「たとえば」などを使って表現する方法で、比喩法の中で形式が最も簡単なものになります。

簡単な比喩の手法ですが、上述のように「狸みたい」、「象みたい」や「蟻みたい」といった表現は外国語で使うときはその言語でそれぞれの動物や対象物がどういうイメージで把握されているか確認してから使わないとリスクもありそうです。

2, 隠喩(いんゆ)
(英語:英: metaphor)いわゆるメタファーです(語源は“転送”を意味するラテン語のmetaphora)
「メタファー」という言葉は英語からの借用語として比喩全般を指すときに使われますが本来は比喩表現の中でも類似性に着目して、ある言葉を、それとはまったく異なる概念領域にある言葉で表現する方法です。暗喩(あんゆ)ともいい、「~のようだ」「~みたい」という語句を使わずに比喩を表現します。
「足が棒になった(足がこわばるほど疲れた)」「君は僕の太陽だ(光をくれる存在)」「ネットが炎上した(誹謗中傷が集中した)」「パンの耳(端)」「テーブルの脚(支柱)」「月見うどん(卵の黄身を月に例えてます)」なども隠喩です。
また、隠喩は文学でもよく使われます。
「この世は舞台、人はみな役者だ(シェークスピア)」(All the world’s a stage,
And all the men and women merely players)

また、聖書でも隠喩はふんだんに使われています。

「わたしが道であり、真理であり、いのちなのです。わたしを通してでなければ、だれひとり父のみもとに来ることはありません。」(ヨハネ14:6)

3, 換喩(かんゆ)
(英: metonymy)メトニミー。語源はギリシャ語μετωνυμία(名前の変換)です。
「今月も赤字」と言ったら欠損があること、というように、ある事物をそれと関係のある事物を使って表すことです。「青い目」で「西洋人」を、「鳥居」で「神社」を表します。「ごはん」は本来お米を意味しますが、「朝ごはん」「昼ごはん」などでは食事全体を示しています。「鍋を食べる」は「鍋」で鍋料理を表します。「やかんが沸騰する」の「やかん」はやかんの中の水のこと。「夏目漱石を読む」の「夏目漱石」は彼が書いた本を著し、「白バイ」は警察官を、「客足が遠のく」の客足は顧客を、「足の便が悪い」の「足」は移動手段、「耳が早い」の「耳」は噂などの情報を集める能力を意味します。


鍋を食べる。(=鍋料理を食べる)

やかんが沸く。(やかんのお湯が沸く)

4.提喩(ていゆ)
(英語:synecdoche)シネクドキ。語源は同時理解を意味するギリシャ語(συνεκδοχή)です。
「花より団子」の「花」が「風流」や「外観」を示すように、概念を包摂するような上位語、あるいは逆に下位語を用いて表現する比喩の方法。「花見」は「桜」を「桜」の上位語である「花」で表し、「下駄箱」の「下駄」は「履物」という上位語を、「筆箱」の「筆」は筆記用具を表しています。

逆に上位語で下位語を表すこともあります。「お茶をする」の「お茶」は「飲み物」を表し、「手が必要だ」の「手」は労働力を表しています。「天気がいい」の「天気」は本来、晴れだけでなく雨や嵐も含む上位語です。

お花見(⇒桜を見ること)

下駄箱⇒(履き物を入れる棚)

親子丼は「親子」は「人間の親子」「動物の親子」などを含む上位語が下位語(鶏の親子)を表しているので提喩になります。でも・・・「親子(鶏と卵)」を一緒に食べている、と想像するととたんに食欲が減りそうな気がしますね。

親子丼(鶏と卵という親と子が入ったどんぶり)

しかし、この提喩と換喩ですが、例えば「手を貸す」の「手」は「体の一部」を表すという点では提喩(シネクドキ)ですが、「労働力」を表していると考えると換喩(メトニミー)にも思えます。提喩は「包摂関係にある二者の置き換えを意図する修辞法(量的な置換)」で、換喩は「包摂関係にない二者の置き換えを意図する修辞法(質的な置換)」とされていますが、表現によってはどちらに属するのかはっきり区別するのが難しいものもあるようです。(鍋)

参考:新版 日本語教育事典

フランス語の表現辞典のサイト:https://www.linternaute.fr/expression/cgi/recherche/recherche.php
英語でイメージも同時に検索できるサイト:https://dictionary.cambridge.org/dictionary/english/


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