<めざせ語学マスター>ヨーロッパで通訳になる(フランスESITの例)

2022年5月26日

もう20年以上昔のこと。フランス語検定でエールフランス特別賞をいただいたときの面接で、フランス人審査官に「フランス語の通訳になりたいならエジット(ESIT)にいったらいい」と言われたことがあります。ESIT?そんな通訳学校があるんだ、と思って憧れました。

日本の、少なくとも私が入社した翻訳・通訳会社で経験した通訳業界は、徒弟制度のような完全OJTでした。先輩が都合がつかない場合に代理としてアフリカへ出張したり、「明日来れる人にお願いしたい」というクライアントの急な要請があり他に誰もいけない場合は自分でいったり。そうして先輩のやり方を真似したり、クライアントから叱咤されながら業務実績を積み重ねていました。「あなたが自分で翻訳するなんて10年早い」と大先輩にミスを発見されて怒られ、「他の通訳さんはメモをとってたよ。」とクライアントから教わり、「声が小さすぎるから自信がなく見える」など言われたりして少しずつ要領がわかっていったのです。

ESITとは、1957年にパリ第3大学(ソルボンヌ・ヌーヴェル)に創設された翻訳・通訳大学院 ESIT(École supérieure d’interprètes et de traducteurs)のことです。ここでは様々な言語の通訳・翻訳家・手話通訳・翻訳学研究者を養成しており、第一線で活躍する翻訳・通訳のプロによって授業が行われています。

そもそも、応募資格からしてかなり敷居が高いです。

通訳部:
学士ないしそれに相当する資格保持者でかつ 言語Bが話されている国に12ヶ月以上通して滞在したことのある者(バイリンガルの環境で育った人、あるいは累計18か月以上にわたる長期の海外滞在があるものを除く)。言語Bとしては少なくともC2レベル以上が必要。言語Cの話されている国に半年以上滞在することを推奨する。言語Cに求められるレベルはC1からC2。
言語A・B・Cの中に英語とフランス語が含まれることが必須。
現在推奨されている言語は、ドイツ語、英語、アラビア語、ボスニア・クロアチア語、中国語、スペイン語、フランス語、ギリシャ語、イタリア語、日本語、ポルトガル語、ロシア語だが市場によってはその他も可能。イタリア語、ギリシャ語、ポルトガル語がA言語の場合、3言語以上の知識が必要。
コミュニケーション力、集団学習、オープンマインド、理解力なども必要。

そもそも言語A、言語B、言語Cとは?こちらはESITのサイトに詳しく説明されています。

言語A、言語Bと言語Cとは
言語Aは、教養のある母語のことであり、語彙が豊富で、正確かつ落ち着いて使える言語。
言語Bは、言語Aと比較すると語彙が少なく、アクセントがあり、表現がぎこちない言語。言語Aと言語Bの両方のニュアンスの違いを理解する必要がある。言語Bでの表現は、早く、かつ正確でなければならない。
言語Cは、言語A及びB同様、完全かつ正確に理解される言語だが、あまり活発に使わない言語。
フランス語と英語は、言語A、B、またはCで必須。

上述のように、通訳コースの試験を受けるためには、言語Bの国に1年以上滞在している必要がありますが、これについてもかなり厳しいチェックが入るようです。ESITのホームページに質問回答があります。一部紹介してみます。(ESITの質問回答のページ

1) 言語Bの国での滞在について
Q1:会議通訳の修士号を取得するには、言語Bの国に12か月以上連続して滞在する必要があります。なぜですか?
A1:会議通訳の学習を開始するには、言語Bで非常に優れた表現レベルが必要で、それには最低でも12か月の滞在が必要です。言語Bは、母語ではなくても母語同様の豊富な表現を身に着ける必要があります。通訳者は、言語Aから言語Bへ、またその逆にも逐次あるいは同時に通訳できなければなりません。

Q2:私はバイリンガルの環境で育ちました。 言語B国での滞在は必要ですか?
A2:バイリンガル環境で育った場合、居住基準免除の申請が可能です。

Q3:エラスムス計画(The European Community Action Scheme for the Mobility of University Students : ERASMUS、EU加盟国間での学生交流)で言語Bの国で10か月間過ごしましたが期間は足りていますか?
A3:いいえ。1年間の滞在を完了する必要があります。

Q4:言語Bの国で10か月間過ごし、1年後にさらに6か月間滞在しました。2つの滞在を足して12か月の滞在に置き換えることができますか?
A4:原則として、可能です。 事務局に免除申請をすることをお勧めします。

Q5;私は18か月間オランダ(または英語を話さない別の国)で過ごし、そこで毎日英語を使っていました。 この滞在は英語圏での滞在として認められますか?
A5:いいえ。 滞在は、公用語と使用言語が言語Bである国である必要があります。

Q6:通訳セクションへの登録に必要な滞在を証明する書類は何になりますか?
A6:言語Bの国での滞在期間を証明する書類(雇用契約、学業証明書、賃貸契約など)になります。

2)言語ペアについて
Q7:言語Bがどの言語かわかりません。英語とフランス語のどちらを示せばいいでしょうか?
A7:まず、サイトの言語Bの定義をよく読み、言語レベルを検討してください。言語Bの場合、C2(*)と同等のレベルが必要です。わからない場合は、滞在期間が最も長いほうを選んでください。 1次試験に合格したら試験中に審査員に事情を説明ください。 語学力に応じてアドバイスしてくれます。

*CEFRでC2は最高レベル。CEFRについては過去ブログを参考。ちなみに英検1級はその下のC1レベルです。参考:日本英語検定協会サイト 

Q8:自分の言語Aがわからないのですが、どうしたらいいでしょうか?
A8:繰り返しになりますが、言語Aの定義をよく読んでください。言語Aとは、当人は当該言語コミュニティによって教養のあるネイティブと見なされなければなりません。 外国訛りなしで話せるだけでは十分ではありません。

Q9:英語圏に3年間住んでいてバイリンガルだと言われますが、2つの言語を言語Aとすることはできますか?
A9:ご注意ください。通訳に求められる要件は、友人との会話よりもはるかに厳しいものです。通訳に適用される言語の定義によれば、2つの言語Aを獲得することは非常にまれです。

Q10:在学中に言語を追加できますか?
A10:お勧めしません。すでに習得している言語ペアでの通訳方法の習得とその完成度を高めることに集中することをお勧めします。言語を追加するなら卒業後でもできるでしょう。

翻訳コースでも、授業は、母語または作業言語を含む3か国語の組み合わせで行われます。三か国語の組み合わせでは、選択した第3言語(ドイツ語、アラビア語、中国語、スペイン語、イタリア語、日本語、ポルトガル語、ロシア語)に関係なく、フランス語と英語は必須です。フランス語が母語ではない人は、フランス語のDALFのC2(CEFARの一番上)を取得していないといけません。

・・・Q&Aを読むだけで汗がでてきそうですね。

ESITでは翻訳と通訳セクションもばっちり分かれていて、学習の仕方も入学試験も全く別です。それに比べると日本の大学や大学院では、通訳や翻訳者のプロを養成するというより、どちらかというと文学も音声も包括的に研究する場になっている気がします。ESITは授業も厳しそうですが(入ってからも脱落する人も多いようですし)、その分卒業後に即戦力になれる可能性があります。卒業後にすぐに国際的な会議のブースでデビュー、も夢ではないですね。

実際、日本でも日本語フランス語の同時通訳さんにはESITを出ている人も多いです。

前のブログで書いたCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR: Common European Framework of Reference for Languages)でも感じましたが、ヨーロッパはそもそも言語に対する意識が日本とは大きく違っている気がします。(鍋)

<めざせ語学マスター>日本語教育に関する他のブログはこちら
CEFR(セファール)の複言語主義とは
CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)って何?
ジョハリの窓
ルース・ベネディクトの「菊と刀」
サピア=ウオーフの仮説
日本語教育能力検定試験に合格しました!
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プルプル、ゴロゴロ、オノマトペ
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日本語教育能力検定試験 今年も受けました
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来日外国人の激減について
学校文法と日本語教育文法
日本語教育能力検定試験に落ちました

 

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コメント

  1. 佐藤香織 より:

    60歳の女性ですが、修士号を持ち、B言語の翻訳通訳の経験が20年あります。言語Bの国に12ヶ月連続して滞在経験はありません(通算で半年)がこれはバイリンガル環境で育ったの代わりにはなりませんでしょうか。通訳コースに入るのは無理でしょうか。

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