Nさんへ
お客さんから今回のお仕事はキャンセルになったと言われました。 Aより |
私は同じ職場の外国人スタッフ(部下)からこういったメールをもらうことが結構あります。
普段はお客さんに丁寧なメールを書いているスタッフも、社内の人宛にはもっとフランクになるのですが、なぜか少し違和感を覚える文章が時々送られてきます。
なぜ違和感を覚えるのでしょうか。
日本語としては一文一文おかしくない。でもまとめてみるとなんだか変。
長年この手の「なんだか・・ちょっと・・」という事に違和感を抱いていたことが日本語教育能力試験の勉強をしてみて「これか!違和感の理由は!」と理解できることが多く、私にとっては収穫でした。
今回は久しぶりに日本語教育の中に出てくる文法カテゴリーのうちの「モダリティ」について考えます。
例えば「次からは気を付けますね。」は「次からは気を付けます。」これが文章の中心。そして「ね」はその文章全体を包み込むように話者の気持ちを表します。ここで表す気持ちは「仲間意識」のようなものでしょうか。
文章の中心を「命題」とすると、モダリティの役割は以下のようなイメージでしょうか。
ちなみに、文章の最後にある「ね」は文法的には「終助詞」の一つで、文の後ろについて話者の気持ちを添える働きがあります。「ね」のように話し手の気持ちを追加するモダリティの表現には次の2つがあります。
判断のモダリティ | その文で述べている事柄に対する話し手の心的態度を表す (例:のだ、わけだ、はずだ、ことだ、そうだ、ようだ、らしい、に違いない、かもしれない、だろう、まい・・) |
伝達のモダリティ | その文を聞き手にどのような気持ちで伝えるのかという話しての心的態度を表す (例)ね、よ、よね、ぞ、ぜ、わ、さ) |
つまり「ね」は伝達のモダリティを表しています。このうち「ね」は相手に同調を求めたいときによく使います。
歌の歌詞にも「あの日を思い出してね」「これからもどうぞよろしくね」「多分わたしじゃなくていいね」「ごめんね」など、「ね」はよく使われます。この「ね」によって、聞き手は歌い手の気持ちにより寄り添いやすくなるのもしれません。事実、「ね」は、仲間意識、連帯感を強調したいときによく使います。ただ、この場合の「ね」は省略することも出来ます。(任意の「ね」)
しかし、「ね」にはもう一つの用法もあります。
次のアルバイトの面接風景を見てください。
面接風景なのになんだかせりふが変な気がしませんか?面接官は一体何を確認したいんでしょうか。でも下のようにすると違和感がなくなります。
なぜ「ね」が必要なんでしょう。
それは「ね」の前の情報がなんなのかを考えてみたらわかります。
面接官は履歴書を見ながら情報を確認しています。つまり、面接官は、アルバイトの候補者がすでにわかっていることを確認しています。ここでの「ね」は双方で確認するときの「ね」です。この時の「ね」は省くことが出来ません。(必須の「ね」)
さて、記事の最初にもどってメールの件。結局、連帯感を出そうとした「ね」が多すぎて受け取る人が「どれだけ同調求めてるの?」と感じるところに問題がありそうです。
試しに「ね」を消してみます。
お客さんから今回のお仕事はキャンセルになったと言われました。 もう少し見積りを安くしたほうが良かったですか。 次からは気を付けます。とりあえずお客さんに確認してみます。 |
結構普通の文章になりました。
こうやって見てくると、メールなどのメッセージでは「寒い日が続きますね。」とか「もうすぐ年末ですね。」など、お互いに分かっている季節の挨拶以外は、あえて連帯感を出そうという「ね」は使わないほうがよさそうに思えます。特に相手がお客や先輩、上司の場合は「ね」の多用は「上から目線」や「なれなれしい」などと思われる可能性もあるので注意したほうが良いと思います。(鍋)
おまけ
1,モダリティには「副詞のモダリティ」もあります。例えば「どうぞ・・・ください。」の「どうぞ」や、「どうやら・・・らしい」の「どうやら」。他にも「残念ながら」「あいにく」などの副詞も、文の意味に話し手の心的態度を追加する「モダリティ」です。
2,英語のモダリティはmay, could, must, should やpossibly, necessarily などがあります。日本語では述語の前にモダリティがつくんですね。
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